黒史郎 『ボギー 怪異考察士の憶測』 (二見ホラー×ミステリ文庫)

また、あの夢を見る予感がする。鼻の奥で鉄の臭いがするのだ。発作かもしれない。どちらにしても悪い兆しだ。再び、あの夢を見だしたら、また徒に背が伸び続けるのか。冗談ではない。そんなことになれば、いずれ私の背は、あの忌まわしい月に届いてしまう。



余命約半年を宣告されたホラー小説家、桐島霧。作家としての限界と、「祟り」が原因でまったく書くことのできなくなった彼に、著名な怪異サイト「ボギールーム」の管理人からメールが届く。あえて問いたい。祟りはあるのか。ここに記すのは、怪異考察士となった桐島霧の自身に降り掛かった「祟り」に関するメモであり、考察である。

お叱りを受ける覚悟で書くが、これは小説ではない。



余命宣告を受けたホラー作家が、子供の頃に経験した謎を追う。昭和50年代の新聞や雑誌、インタビューといった虚々実々の資料や、数十年ぶりに帰った故郷での取材から、ひとだま、火車、ろくろ首といった怪異を考察し、奇妙な風習に隠された「祟り」のシステムを解き明かしてゆく。一言でいうと変則的な実話怪談、なんだけど、物語のリアリティラインが面白いくらいぐわんぐわんと揺れ動く。ホラーのプロだからこそ書ける、博覧強記のぶっ飛んだホラーだと思う。ちょう楽しかったです。


全部が繋がっているのだと思った。世界中のあらゆる国で信仰され、忌まれ、怖れられているもの。それらは名前や伝わり方、受け容れる人々の宗教観・死生観が違っているだけで、みんな同じものを信じ、同じものを敬い尊び、同じものを忌み嫌って、怖がっているんだ。