悠木りん 『こんな小説、書かなければよかった。』 (ガガガ文庫)

「やりたいことも、行きたいところも何もない。けどそれでもいいんだ。だって私たち、お互いが隣にいれば、それだけでいいんだもんね?」

ひどく無邪気なつむぎの声に、わたしは束の間息が詰まった。

それはわたしもそう思っていたことのはずなのに、つむぎの楽しげな声の裏側から覗く感情の片鱗は、わたしのそれとは異なる色をしているような気がした。絡まったつむぎの指が柔らかな棘となって手の甲に食い込み、わたしを捕らえているような錯覚をする。

「永遠に?」「うん。永遠に」。幼い頃に交わした口約束。それ以来、しおりとつむぎは何をするにも二人一緒、ずっと変わらない関係のはずだった。ある日、入院中のつむぎがしおりにお願いをする。それはヒロインみたいな恋をすること、そしてそれをしおりが小説に書くこと。

この恋を小説にして、永遠に残してほしい。同じ永遠を望んでいたはずのふたりの少女の間には、成長するにつれて埋めようのない溝が生まれていた。小学生から高校生になるまで、過去の関係と時間に伴う心情の変化を、情緒を含め自然な、それでいて執拗な言葉で掘り下げる。ストロングスタイルの青春百合小説。「小説に残す」という目的が物語にあることが、明快でわかりやすい言語化を生んでいたのだと思う。とても良いものでした。青春小説の快作だと思います。