竹林七草 『ヒルコノメ』 (二見ホラー×ミステリ文庫)

その小山の上に、人が立っていたのだ。

いや、あれを人と称していいのか――美彌子の中に、ざわついた疑念が浮かび上がる。

なんだろう……遠目だからはっきりとはわからないが、けれども人として歪であまりにもありえない輪郭をしているように、美彌子は感じた。

祖母の葬式のため、ひとりで奈良の田舎を訪れた大学生の橘美彌子は、火葬場からの帰りに歪な人影を目撃する。その後、東京に戻った美彌子の周りの人々が、次々に変死を遂げる。彼らはみな一様に「ワギモハイズコ」という謎の言葉を遺していた。

「蛭児」の文字の形に浮かぶ腕の傷。首の周りに浮かぶ先のような赤い痣。関わった者から首を奪う首なしの黒い異形、ヒルコの正体を追う日本の歴史×ホラー×ミステリ。実在する神社、古墳をめぐり、記紀神話の成立史とその闇から異形の正体を推理し追っていく展開は、MMRを思い出させるものだった。ちょう怖くて、めっちゃ人死の出る令和のMMR。物語のベースとなる情報はほとんどが実在のものなので、だいたいのあらましはWikipediaなどで読める。本書を読み終わってから、いろいろ検索してみると、さらに背筋が寒くなれるかもしれない。恐怖心と知識欲をまとめてくすぐられる良いホラーでした。