両生類かえる 『海鳥東月の『でたらめ』な事情』 (MF文庫J)

「――私は、でたらめちゃんって言います」

「……?」

「でたらめちゃん。ちゃんまで含めて名前です。平仮名七文字きっかりで、でたらめちゃんです」

「……なんて?」

「泥棒に遭ったみたいなんだ」。帰り支度をしている教室で、海鳥東月はクラスメイトの奈良から唐突に告げられる。泥棒を見つけるため、協力してほしいと奈良に頼まれる東月。それが奇妙奇天烈な事件の始まりだった。その夜、東月が一人暮らしをする部屋に、全身真っ白な少女が訪れる。

嘘を吐けない海鳥東月は、嘘しか吐かないでたらめちゃんに乗せられて、この世に蔓延る嘘を殺す。第17回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作は、少し変わった青春小説、なのかな。恐ろしくレベルの高い変態の登場から始まり、生命を持ち物理法則さえたやすく変えてみせる「嘘」という概念、次々と現れる来訪者と嘘に関する新事実。果たして誰が嘘を吐いているのか、そもそもどこからどこまでが嘘なのか。ゼロ年代的な語り口に最高に噛み合った仕掛けがとても楽しい。怒涛の展開を見せる前半は、かなりの奇想小説と言っていい。……そこまでは最高に好みだったのだけど、物語がまとまりはじめる後半は、ちょっと無難で尻すぼみに見えてしまった。どう見ても難しいのはわかるんだけど、もっと風呂敷を広げていてほしかった、というのは個人的なわがままではある。続きも買います。