駿馬京 『インフルエンス・インシデント Case:03 粛清者・茜谷深紅の場合』 (電撃文庫)

脆弱な言語力と思考力でもって他者と接する機会が増えたからこそ、その間に軋轢が生じて、個人間コミュニケーションの機能不全が起こる。思考力を持たない人間は他者の思考を頼ることでしか『思考の真似事』すらできない。人間が溜め込んだ膨大な知恵は書物や判例、調査資料となって保存されるが、知能を持たない人間はそもそもこれらを参照できない。

だからこそ人間は『配信』に頼る。

連絡先どころか生死すら不明だった親友、冬美と思いがけない再会を果たしたひまり。しかし、記憶と大きく違う冬美に、ひまりは話しかけることすらできなかった。時を同じくして、RootSpeak上では #SeparationCatsQuest という謎のハッシュタグが流行し、呼応するように若者の自殺が増加しつつあった。

閉じられたコミュニティで、身の丈にあった生活をしていた「考えない葦」たち。しかし彼らは、インターネットという明るい闇に照らされたことで、他人の生活や世界を知り、つながってしまった。インターネットとSNSが社会に与えた功罪を浮き彫りにする、シリーズ第三巻。岡田有希子や「ブルー・ホエール・ウォッチング」を引き合いに、インフルエンサーやインターネットの負の側面と、考える葦である「人間」を語ってゆく。大みそかの決闘という形で描かれるクライマックスの熱も含めて、「今のインターネット」のすべてが詰め込まれていたように思う。最高でした。



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