松村涼哉 『犯人は僕だけが知っている』 (メディアワークス文庫)

両手を頭で抱え、瞳を閉じ、悲哀と困惑を解釈する――このえぐみは、どんな魔物で表現すればいい? ――どんなアイテムに頼れば解消される? ――底なしの闇に吸い込まれそうな不安に、勇者なら何を選択する?

現実をゲームで捉え直す、慣れ親しんだ精神を落ち着かせる方法。しかし、なぜか今日に限っては効果がない。

必要なのは現実逃避ではなく、怜悧な思考か。

過疎と高齢化が進む田舎町。その町立高校で、三人の生徒が立て続けに失踪する。学校は騒然とするが、僕だけは三人が生きていること、そして姿を消した事情を知っていた。しかし、それから間もなく四人目の失踪者が死体で発見されることになる。

「多分あっという間に時が流れると思うんだ。進学も就職もできず、いつの間にか、二十歳、二十五歳かも、三十歳かもしれない。そこでようやく人生が始まるんだけど、資格も職歴も学歴もないわたしが、何になれるんだろうね?」

彼女は空を見上げる。

「つら」

二文字の言葉が心に強く響いた。

現代日本のとある田舎町で起こった高校生連続失踪事件と、ひとつの殺人事件。その裏には何があったのか。自分を取り巻く恐ろしい世界をゲームとして解釈するという、認知行動療法としてゲームを制作し、ジョック・ヤングの「排除型社会」を愛読する高校生の視点から読み解いていく。「排除型社会」で語られ予言されたアメリカよりも不安定になり、相互理解ができないことが明らかになってしまった目の前の社会をいかに理解すべきか。いかに不安と向き合い、生きていくか。

ここ数作、社会派サスペンスを書いてきた作者にとっても、かなり大きなテーマだったのではなかろうか。現在進行形で回答のない物語であり、鬼気迫るものがあった。直接は関係ないけど、衰退した田舎町の象徴が廃ラブホテルなのいいよね。とても良い作品だったと思います。