円城塔 『文字渦』 (新潮社)

表示される文字をいくらリアルタイムに変化させても、レイアウトを動的に生成しても、ここにある文字は死体みたいなものだ。せいぜいゾンビ文字ってところにすぎない。魂なしに動く物。文字のふりをした文字。文字の抜け殻だ。文字の本質はきっと、どこかあっちの方からやってきて、いっとき、今も文字と呼ばれているものに宿って、そうしてまたどこかへいってしまったんだろう。どう思う」

と境部さんが繰り返す。

「昔、文字は本当に生きていたのじゃないかと思わないかい」

過去、現在、未来。文字がいかに誕生し、進化し、生活し、変化してきたか。おそろしく頭の良いユーモアに屁理屈を加えて「文字」というものをこねくり回す、第43回川端康成文学賞受賞作。何を言っているんだ、みたいなアプローチがとんでもない発想に繋がっているのが楽しくて仕方ない。まあ、ちゃんと理解できているかが怪しいところではあるが。