雨井呼音 『お姉ちゃんといっしょに異世界を支配して幸せな家庭を築きましょ?』 (MF文庫J)

「良い子は天国に行ける、でも悪い子はどこにでも行ける」

そこに誰かの思惑など挟む余地もないくらいの速度で。

「……天使でたまるか」

私は、一歩を踏み出した。

「あなたのお姉様と結婚して、あなたのお姉様が支配する異世界へと行き、あなたのお姉様と一生一緒にいてください」。高校生、笈川野分の前に突然現れた、異世界からの使者を自称する少女。その言葉は、四年前に行方不明になった姉、笈川葉桜からのプロポーズだった。

実の弟と結婚するため、異世界を支配した姉はこの世界を侵略する。第17回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞受賞作。お互いのことしか眼中にない姉弟は、ふたつの世界に分かたれた。ヤンデレの姉の話かと思ったら、弟もヤンデレだったでござる。さて、本当にそうかな? 少年少女たちは誰も本当のことを言わないまま、物語はくるくる流転する。

正直なところかなり読みにくいのだけど、こういう面倒くさい話は嫌いでない。都市伝説や学校の七不思議を利用して侵略してくる異世界、というのも珍しくはなくなったけど、なんだかんだいろいろなアプローチがあるものだ。あとがきで語る、作中もうひとつの「異世界転生並みのファンタジー」という言葉に作者の誠実さを感じた。良かった。続きを楽しみにしております。