人間六度 『スター・シェイカー』 (早川書房)

人はどこにも逃げられない。皆、頭でそうわかっているから『異世界』などどいう幻想に浸る。

人は所詮、行くところに行くだけ。

「テレポートに自由なんかない。そういう社会なんだよ」

「だから、無心に走る。今はそれしかなかった。

21世紀の終わり。世界はインフラの再構築による〈テレポータリゼーション〉の時代を迎えていた。道路は放棄され、距離という概念が消えた世界。事故によってテレポート能力を失った元テレポーター、赤川勇虎は、空洞化した東京でひとりの少女を拾う。

第9回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。『虎よ、虎よ!』にオマージュを捧げたボーイ・ミーツ・ガール、かと思ったら唐突に「マッドマックス」(あるいは「錆喰いビスコ」かな)にカンフー映画を混ぜたような話が始まり、テレポートの原理がもたらす宇宙の崩壊を仏教やインド哲学の概念を用いて描き出す。とにかくあれもこれも詰め込んでおり、さらに章が変わるごとに物語自体があらすじから想像できない方向へと進んでゆく。これはひとつながりの小説なのか? という、他の小説ではなかなか味わえないエキサイティングな読み口が味わえる。いくらなんでも無茶がすぎるよ! 本当に普通にムチャクチャをやっていて、これぞ和製ワイドスクリーン・バロック、というべきか。面白いとかつまらないとかではなく、すごい、という感想が先に出る。滅多にない読書体験だったと思います。