白金透 『姫騎士様のヒモ』 (電撃文庫)

「後悔ってのは『クスリ』と同じでね。苦しみから逃れるために手を出すと自己憐憫に浸って、最後にはそこから一歩も動けなくなる」

「……」

アルウィンがグラスに目を落とす。置いた拍子に波打ち、赤い波紋が広がる。

「ああすればよかった、もっと早く気づいていれば、なんて後からならいくらだって考えられる。妄想だよ。そう思わないか?」

大迷宮「千年白夜」を中心に作られた汚れた街、「灰色の隣人」(グレイ・ネイバー)。亡国の再興を目指す気高き姫騎士アルウィンは、願いを叶えるという伝説の秘宝を求め、迷宮に日々潜っていた。そして彼女には元冒険者のヒモがいた。仕事はしない、喧嘩も弱い、小遣いをたかり酒と博打と娼館で使い果たす、誰からも罵られる最低のヒモ野郎。ふたりの間には誰も知らない秘密があった。

第28回電撃小説大賞受賞作。「灰と混沌と悪魔の迷宮都市」を舞台に、一匹のヒモとその飼い主の生き様を描き出す。「Wizardry」を意識したような、繁栄と退廃が同居した都市の汚さに、それぞれに後ろ暗いものを抱えながら生きる住人たちの汚さ。カネ、貧困、病気、クスリ、暴力、セックスといったものを、ファンタジーの範囲でできる限り誠実に描こうとしている、のだと感じた。中盤以降の直接的すぎるバイオレンスに目が引かれるけど、そこに至るまでのファンタジー的フレーバーかと思われた描写に、実はかなりの仕掛けと意味が隠されていることがわかる。しっかりした構成がとても楽しい。異世界ファンタジーとしては異色、というか先祖返りかもしれない。本当に良い作品でした。