「お願いです……最後にわたしといて。終わりのそのときまで、二人でいさせて……」
この世界は、もうすぐ終わるらしい。最後にふたりでいてほしいと「お願い」する日和とともに、深春はシェルターでふたりきり、世界の終わりを過ごすことにする。
「――世界は、そんなにきれいに終わらない気がする」
尾道の片隅から語られる、セカイの終わりとふたりの恋と彼女が本当に願ったこと。異常気象、ウイルス禍、紛争、災害。2000年前後に流行したセカイ系をリスペクトし、20年後の現代にアップデートして再現されたセカイ系の物語。2020年代の始まりに起こったすべての出来事を、たぶん作者も最初は意図しないまま詰め込んだ物語になっている。世界の不条理や不条理に対する感情の気づきがとても良かった。終わるセカイを受け入れる諦観と対称的で、やがて「願い」に変わる。人類の歴史のもとになった感情を結論に持ってくる。慧眼だと思う。その感情が何かは、実際に読んで確かめてみるといい。お疲れさまでした。
――『世界』なんて言葉が乱用された時代がある。
乱用、だったんだと思う。
自分の身の回りの狭い範囲を指して。
あるいは、自分が届かないすべてに思いを馳せて。
そしてときには――その二つを混同して、たくさんの人たちがその言葉を消費した。
それからずいぶんと時間が経って、現在。世界と人々の関係は、大きく様変わりした。