蒼井祐人 『エンド・オブ・アルカディア』 (電撃文庫)

「痛い……、いたい。……お願い。殺、して」

前髪を目元に覆われた少女が、か細い声で鳴く。

この戦場において、瀕死の人間は珍しい。誰も彼も、負傷して自分の身体が使い物にならなくなった途端、複体再生(リスポーン)して次の身体へと乗り換えるからである。

クローン技術の飛躍と記憶の量子化を利用したシステム、アルカディア。人類が「死」を回避しつつある世界で、エルメア合衆国とローレリア連邦の二大国は終わらない戦争を続けていた。エルメア陸軍第一小隊長、一之瀬秋人はこの戦争に疑問を抱きつつあった。

オンラインに接続されている限り、記憶はリアルタイムにバックアップされ、死んだ瞬間から3Dプリンタに出力されるクローンへと移植される。毎日のように殺しては殺されて、それでも誰も死なない戦争。これはメタバースではなく、現実である。第28回電撃小説大賞金賞受賞作は、死が限りなく軽くなった世界で、敵として出会った少年少女の物語。FPSのように複体再生(リスポーン)を繰り返しては殺しあう、終わらない戦争には、いかにもゲーム的な軽さがある。そんな軽い戦争の前で、ヒトはどのような価値観を持つのか。あとがきで作者が語るような意図は十二分に描かれていたと思う。殺し合いをしていた二人が、危機的状況でやむを得ず協力する展開に「キングコング 髑髏島の巨神」を思い出した(もっといい喩えがあるはずだけど、最初に浮かんだのがこれなので……)。楽しかったです。続きも楽しみにしてます。