塗田一帆 『鈴波アミを待っています』 (早川書房)

いつか私がお婆ちゃんになって、その頃には色んな技術が発達してるだろうから、きっとみんなと同じ空間で過ごしてて、みんなのなりたいみんなになれてて、ライブ配信なんかしなくても世界中と繋がってて。それでね、もし私が死ぬときがきたら、盛大なお葬式のイベントを企画して、色んなVtuberさんとか……いや、その頃にはVtuberなんて言葉は使ってないかな。とにかく、世界中のみんなに来てもらって、私はついにインターネットになって、満足しながら死ぬの。……なんて願いは、やっぱり変なのかな。普通の女の子はこんなこと思わないかしら? なんてね。でも、ちょっとくらい変じゃないとインターネットっぽくないから、私はこの先もずっと、いまのままの『鈴波アミ』でいたいよ。

Vtuber「鈴波アミ」がデビューして一年を迎えた夜。告知されていた一周年記念配信は始まらなかった。彼女はそのまま失踪してしまったのだ。関係者すら何も知らない謎の失踪。視聴者たちは、毎晩配信されていたデビューから一年分のアーカイブを同時視聴しながら、鈴波アミの帰りを待ち続けていた。

ジャンプ小説新人賞2020テーマ部門金賞受賞作の長篇化。視聴者が二桁しかいなかったデビューから、活動を続けてどんどん加速してゆくひとりのVtuber。何者でもない視聴者たちは、コロナ禍で速度が遅くなった世界から残された一年分のアーカイブとともに信じながら振り返る。Vtuberの文化は正直よく知らないのだけど、インターネット的な、アイドルとファン的なものに普遍的に通じる物語を感じた。いま現在のインターネットの空気と、2017年からの世界の空気をいっしょに切り取って、きれいにパッケージングしたような。数年後に読んだらたぶん違う感覚を覚えることになると思う。タイムカプセルのような小説だと思いました。よかったです。