ツカサ 『中学生の従妹と、海の見える喫茶店で。』 (MF文庫J)

「大人って、お兄さん大学生じゃないですか」

何を言っているんだという顔で言い返され、俺は渋々訂正した。

「……そうだな。大人じゃなかったな」

よく考えれば、この先ちゃんとした大人になれる自信もない。

家族を持ち、父親の顔になっていた健吾とは違い、俺はまだ子供のままだ。

大学三年の夏休み。東京の美大でデザインを学んでいた間宮宗助は、叔父夫婦の事故の報を受けて、北陸の田舎町へ向かう。五年ぶりに再会した中学生の従妹、九谷唯奈は、たとえひとりでも両親の遺した喫茶店を継ぐと言って聞かない。大学での生活に限界を感じていた宗助は、この夏に唯奈の夢に対して、現実をひとつずつ見せる役割を負うことになる。

北陸の田舎の夏。事故で突然両親を亡くした従妹との五年ぶりの再会。それを支えながら軟着陸させようとする大学生、それぞれの初恋の行く先。とてもよかった。ホストのバイトをしている美大生で、社交的なトークも女あしらいもうまいという、ライトノベルとしては珍しい主人公。中学生の従妹より当然ずっと大人なんだけど、北陸の田舎に五年ぶりに帰ってみると昔の友だちがもう社会に出て家庭を持っていて、実は全然大人の視点を持っていなかったしちゃんと大人になれるか自信もないんだ、みたいなグラデーションが良い。五年の間にあったそれぞれの挫折と失敗、それを乗り越える過程がしっかり描かれている。即物的なタイトルからは想像できない、とても良い青春小説だと思いました。