夜野いと 『夜もすがら青春噺し』 (メディアワークス文庫)

「不安がらずともお前が地獄に堕ちるなら、オレが一緒に堕ちてやるさ」

「千駄ヶ谷くん。私、卒業したら東堂くんと結婚するんです」。大学生の勝が高校時代から七年間秘めていた片思いは、22歳の誕生日の夜にあっけなく砕け散った。現実から逃れるようにやけ酒をあおる勝は、たまたまかち合った美女の飲み代を肩代わりさせられる。神を自称する胡散臭い女性は、飲み代の礼に願いを一つ叶えてやるという。

砕け散った初恋を取り戻すため、命をかけて二度目の大学生活を繰り返す。泣き虫大学生と自称神の一晩の出会いと何もできなかった四年間を描いた、第28回電撃小説大賞選考委員奨励賞。ユーモアと、ハッピーエンドなんだけどどこか物悲しさも残る。いくつもあった人生の分岐点で、何も行動しなかった過去を顧みて、この主人公かなりダメな奴なのでは? と思わされつつ、どことなく森見登美彦を連想した。いい意味でどんくさい、あきる野の森見登美彦というのかな(あきる野で合ってるよね?)。