泉サリ 『みるならなるみ/シラナイカナコ』 (集英社オレンジ文庫)

楽しくて、幸せで、内側から押し出されるみたいに涙がこぼれた。言葉が喉に詰まって上手く歌えない。でも声を出し続けた。曲の最後の音の余韻が消えたとき、それまで照っていた日が雲に隠されたのがわかった。終わってしまうのが寂しくて、私は顔も拭わないまま、ステージにぺたんと膝をついてギターのネックに縋りついた。

新興宗教で「幸福の子」として扱われたいた四葉は、唯一の友人に対して許されない罪を犯す。2021年度集英社ノベル大賞大賞受賞作の「シラナイカナコ」と、本気で音楽を志す鳴海が、高校進学を機に友人たちとガールズバンドを組むが、その募集に現れたのは紛れもない男だった「みるならなるみ」の二作を収録したデビュー単行本。「みるならなるみ」はまだきらきらした瞬間のあるガールズバンド小説と言い張れる。しかし新興宗教の粘度と湿度の高い描写と、そこからの脱出、さらにその後の現実まで描いてしまった「シラナイカナコ」は……。こんな枯れた(という言い方でいいのか)小説を書ける高校生がいた、という事実はなかなか恐ろしいものがある。いろんな方向の小説を書いてほしいし読んでみたいな、と思わされた。良きものでした。