東崎惟子 『竜殺しのブリュンヒルド』 (電撃文庫)

そう悪い気はしなかった。いや、はっきり言おう。むしろ多幸感に満ちていた。

愛する人の意思を無視して、蹂躙しながら、ひとつになる行為は、

想像を絶するほどに心地よくて、

恐ろしいまでに気持ちよかった。

伝説の島、エデン。島を護る白銀の竜によって、ひとりの幼子が拾われる。竜の血を浴びて生き延びた幼子を、竜は我が娘のように育て、娘も竜を父のように、いやそれ以上に愛した。それから十三年。竜殺しの英雄、シギベルトの襲撃により、竜は殺され、娘は帝国へと奪還される。

親子というのは、そんなにも超常的な心のつながりを有した関係なのか?

神話のような語りから始まる、第28回電撃小説大賞銀賞受賞作。まず竜と楽園の神話があり、人間の手で終わり、そこから新たな神話が始まる、みたいな。そこで語られるのは、「父」と子の間にある愛情と憎悪であったり、そこから生まれる復讐と背徳であったり。あまりに不器用でどろどろとしたものを抱きつつ、まっすぐすぎる愛を描いた、首尾一貫した綺麗な物語でもある。端正なテキストの読み心地も含めて、紅玉いづきと同じ何かを感じた。推薦するのがよくわかる。傑作だったのではないでしょうか。



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