小川哲 『地図と拳』 (集英社)

「君は満州という白紙の地図に、日本人の夢を書きこむ」

なぜこの国から、そして世界から『拳』はなくならないのでしょうか。答えは『地図』にあります。世界地図を見ればすぐにわかることですが、世界は狭すぎるのです。

満州に存在した、もともと人の住まない名前すらなかった土地。時代の都合でころころと名前を変えられ、形を変えたその都市で繰り広げられた策謀と殺戮を描く。日本、支那、ソビエトのそれぞれの視点を入れ替えつつ、1899年の夏から1955年の春の約半世紀を描く、歴史幻想小説。600ページオーバーのハードカバーというまごうことなき鈍器だけど、テキストは非常に読みやすく、死と暴力、時折挟まれるユーモラスな幻想と狂気がそれぞれ紙一重に重なってゆく様がすんなり入ってくる。テーマや読み口が『ゲームの王国』に近いものがあるのだけど、SFとして未来まで書かれたそちらに比べると、現実により寄り添ったこちらは閉塞感と無常観が強い。昨今の世界情勢と重なるところもあり、戦争の空虚さと、現実に起こったことを考えてしまう。



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