香坂マト 『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います5』 (電撃文庫)

「アリナさん、俺、変なこと聞くんだけどさ」

ジェイドも自信のない声で、表情の端々に不安の色を滲ませながら、こう言った。

「もしかしてこの職員旅行、繰り返してないか?」

年に一度の冒険者ギルド職員旅行。今年の目的地は大陸にその名を轟かすリゾート、リル島の観光都市リーティアン。憧れのリゾート地に公費で行けることにウッキウキなアリナは、サービス残業で完璧な旅行プランを練り上げた。一泊二日の旅行が、長い悪夢の始まりだということも知らずに。

――悔しい。

ああ、悔しい。悔しくて悔しくてたまらない。一度、諦めかけてしまった自分が、憎くすらある。もはやどうしようもない現実を前に、諦めるしかない自分が憎い。

あの日からアリナはずっと思っていた。残酷な現実なんて全部叩き潰してやりたいと。

日常を離れたリゾート地、ループする一日、謎の少女幽霊、明らかにされるいくつかの謎。くじけない心と力で障害をねじ伏せる、強い女主人公の系譜にあるファンタジー第五巻。なんとなく「劇場版」のような舞台建てを感じる。ギャグとシリアスのバランスが、今どきの少年漫画的で実に楽しい。残業への想いや影を胸に抱えながら、圧倒的で芯のある「強さ」を持った主人公の描写は痛快で、とにかくかっこいい。キャラクターを活かした物語も、巻が進むごとにしっかり面白くなっている。ぜひ今からでもどうでしょうか。