ヰ坂暁 『世界の愛し方を教えて』 (講談社タイガ)

有沢ニヒサは異世界人だ。俺が一番愛した女優・有沢アテナを追い出す形でこの世界へ現れた。

映画を愛し、映画監督の父と世界を憎む高校生、灰村昴は、有沢ニヒサが踏切に飛び込むところに出くわす。誰からも愛される大女優にして、「異世界病」を患った異世界人。ふたりは、大嫌いな世界への憎しみを込めた映画を撮ることにする。題名は『世界の憎み方を教えて』――

予告しておくと、俺はたしかにその映画を撮って、公開した。有沢ニヒサの世界への憎しみが詰まった映画を。

だけど、それでもニヒサと俺は世界の愛し方に辿り着くことになる。

これはそういう物語だ。

どこかにある異世界の人間と、人格と記憶がまるっと入れ替わる現象、「異世界病」。「世界が好き」ってどういうことだと思う? 私は「飼い馴らされる」ってことだと思ってる。そう断言し、世界を憎悪する異世界人を、世界を嫌う高校生が映画に撮る。その過程で、世界や社会、親子関係、異世界への憎悪と諦念が執拗に描かれる。凄かった……。希望と絶望、愛と憎悪が幾重にも折り重なるなか、自分は世界がまるごと嫌いじゃないんだ、と気づいて足取りが軽くなる主人公に少し気持ちが救われた。前作でも萌芽は見えたと思うけど、想像を遥かに超えてる作品を出してきたと思う。紛れもない傑作でした。



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