立川浦々 『公務員、中田忍の悪徳4』 (ガガガ文庫)

「俺たちは認めねばならない。この世界には他人の足を引っ張り、誰かの嫌がるさまを喜びとし、私利私欲を満たすことに執着する人間が、確かに存在すると。俺たちはその存在すらも受け入れ、法の下の平等に照らし、生きる権利を保障し続けねばならない。『保護受給者の中にも、頑張っている人や良い人はたくさんいる』などという当たり前の現実(トートロジー)に酔うのは、“善良な市民”にのみ許される無責任な娯楽だ。むしろ“そうでない”人間を生かし続けることこそ、“善良な市民”が放棄した、俺たちの責務だと考える」

異世界エルフことアリエルに、公的な身分証明書が降って湧いた。マイナンバー、保険証、住民基本台帳……。それは、公的機関のデータを自在に操ることができる超越的な監視者がいることを意味していた。

「……今の世界(わたしたち)は、かぐや姫を迎えられるほどに、美しいんでしょうか」

異世界エルフが、家庭や仕事のある大人たちが戦わなければならない敵、それは現実。福祉の視点から「世界」を捉え、異世界エルフが生きるにはどうすればいいのか。現実を前に、中田忍は限界を迎えつつあった。大きな転換点になりそうな予感がする第四巻。突拍子もない始まり方から、これ以上考えられないくらい地に脚のついた話作りをしている。それでいて、いい意味で着地点が見えない。この小説で「技術的特異点(シンギュラリティ)」なんて概念が出てくるとは思わなかった。とりあえず後輩一ノ瀬君のヒロイン力が爆発した巻、ということだけ覚えておくのでもいいかもしれない。本当、続きが待ち遠しい説になりました。