両生類かえる 『海鳥東月の『でたらめ』な事情3』 (MF文庫J)

「だって、加古川ですよ、加古川?」

でたらめちゃんは鼻を鳴らして、「言っちゃ悪いですけど、加古川にご当地グルメが二個も三個もある筈ないじゃないですか。常識的に考えて」

でたらめちゃんと東月が出会って三ヶ月半が経った夏休みの初日。みんなで集まってお好み焼きパーティーの最中に生まれた小さな違和感が、事件の始まりだった。同じ頃、東月はある悩みを抱えていた。

神戸、姫路、加古川をつなぐ母娘三代と奇妙な〈嘘〉。シリーズ第三巻は、嘘をつくことができない女の子、海鳥東月のパーソナリティに迫ってゆく。とても厳しくて恐ろしい、でも実は……な祖母と、対人恐怖症で引きこもりの母。ふたりの人物像の解像度が恐ろしく高い。友人奈良とのやり取りを通じて語られる部分もあわせて、ちょっと変わった主人公への説得力がぐっと増した。いちキャラクターから、血の通った人物になった瞬間を見せられたと言うのかな。

並行して描かれるのは、神戸市のご当地グルメが「播州のトップにすら立てない弱小市町村」こと加古川市に次々と奪われるという奇想。何を食ったらこういうのを思いつくんだ。奇想小説としてのまとまりは、過去二冊に比べれば着実に良くなってはいると思う。なんというか、独特の不思議な読み味なんだよね。少なくとも人間を描く技量に関しては心配する必要がなくなったと言える。ゆるりと追いかけて行きます。