駒居未鳥 『アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班』 (電撃文庫)

「人格を設定されていないから余計に、あの子はあなたが自覚してないレベルの要求にまで、対応しようとするかもしれないの。あくまで例えばだけど、あなたが彼女を挑発して、攻撃に対する正当防衛として彼女を破壊しようとした時、あなたの内心に自殺願望があったら、あの子は容赦なくあなたを殺すわ。だからこうして、二人だけの時に話してるのよ」

大陸戦争の終戦から数年。かつて兵士として従軍していたテオは、妹を殺した自律型魔導兵器(オートマトン・アーツ)アマルガムの行方を探すため、捜査局刑事部に所属していた。ある日、アマルガムの技術によって生み出された人型自律兵器、イレブンが配備され特捜班が結成されることになる。

「アマルガムに、感情はありません。それらしく振る舞うことはできても、模倣の域を出ない。愛も、憎しみも、死を迎える存在の間で生まれるものです。私たちには、存在し得ない」

第28回電撃小説大賞選考委員奨励賞受賞のクライムアクション。帯コメントを寄せた菊石まれほ「ユア・フォルマ」と似ているようで、あらゆる点が対照的なのが面白い。片や男性主人公と少女型兵器、片や女性主人公と成人男性型アンドロイド。片やチームもの、片や二人きりの秘密を共有するバディもの。片や科学と魔術が手を結んだ架空の世界、片や実在の国や都市を使った世界。片やヒトそのもので感情のない兵器、片やヒトそのもので感情豊かな捜査官。

少女の姿をした感情を持たない兵器イレブンに、死んだ妹の姿を重ね複雑な想いを抱くテオ。研究者としての立場を保ちつつイレブンに少女そのもののように接するエマ。最年長の立場からチーム全員を見るトビアス。チームものだからこそ描ける多面的な物語を描いていて好感が持てた。犯罪コンサルタントに指揮されたテロ、戦争から復興中の都市の光と闇、アクションの描写も良い。このあたりの描写は冲方丁を彷彿とさせるものがあった。「魔術と科学」からファンタジーを想像して手に取ったけど、硬派でエンターテイメントな刑事ものだった。良かったです。二巻も買ったので楽しみに追いかけていきたいと思います。



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