鵜飼有志 『死亡遊戯で飯を食う。』 (MF文庫J)

なにか食べよう、と思った。冷蔵庫を開けた。なにもなかった。なにも入っていないという意味ではない。入っているものの量だけをいえば立派なものだった。捨てる機会を長きにわたり逃し続けている空の牛乳パック。常温での放置が不安なのでここに入れてある缶詰のごみ。いつから入っているのかわからないキャベツ。貧乏性のため捨てられない調味料の小袋。そろそろ魔力でも宿っているかもしれないスライスチーズなどである。痛ましい光景だった。冷蔵庫の扉を幽鬼は閉めて心を守った。

プレイヤーネーム、幽鬼(ユウキ)、17歳。目を覚ますと、見覚えのない洋館にいた。見に覚えのないメイド服を着せられ、同じ境遇の少女がほかに5人。これは、ゲームの始まりだ。

「……いっちょまえに見栄切りやがって……」

幽鬼(ユウキ)は言う。

恨めしげに。

「向いてないんだよこのゲームに! 実社会でやってけよお前みたいなのは!!」

どこかの金持ち共を楽しませるため、肉体改造を施された何も知らない少女たちが、金と命を賭けて殺し合う殺人ゲーム。幽鬼(ユウキ)はこの命を賭けたゲームに繰り返し参加し、文字通り死亡遊戯で飯を食っていた。第18回MF文庫J新人賞優秀賞受賞作。虚無のまま殺戮に巻き込まれる少女たちの姿は『赤×ピンク』の頃の桜庭一樹か、ドゥエイン・スウィアジンスキーかのようでもあり、倫理を取っ払ったうえで命を限りなく安くした「カイジ」のようでもある。

社会での生活力が皆無、殺人ゲームの中でしか稼げない。悪趣味だ露悪的だといえばその通りだけど、虚無のままゲームに参加し、殺すことに躊躇のない主人公幽鬼(ユウキ)に妙な説得力というか、ゴリッとした存在感と生活感があった。非常に現代的な虚無を描いた小説であり、そういう小説がライトノベルの新人賞から出てくるのは面白いことだと思う。続きも楽しみにしています。