菊石まれほ 『ユア・フォルマV 電索官エチカと閉ざされた研究都市』 (電撃文庫)

結局、「生まれてよかった」と思えたためしが、ほとんどなかった。

「ペテルブルクの悪夢」事件から半月。分析型AIトスティがドバイに建設された研究都市、ファラージャ・アイランドで開発された可能性が浮上する。トスティの情報を求めて、エチカとハロルド、ビガの三人はファラージャ・アイランドに赴く。エチカとハロルドが出会って一年。長い冬が再び始まろうとしていた。

「ユア・フォルマが普及した時から、人間の頭の中はこれまでのような暗黒の世界ではなく、操作可能な一つの空間に変わった。今に、『思考の自由』自体がビジネスになる」

研究都市ファラージャ・アイランドで進められていた「Project EGO」が目指すもの。RF(ロイヤル・ファミリー)モデルと敬愛規律の秘密。アミクスの親愛と人間の親愛、それはまったく違う形をしたものだった。国際AI倫理委員会が理想とする社会。オーウェルの描いた古典的な管理社会を、近未来の社会に現出する手段。あまりに多くの「秘密」が交錯し、窒息しそうな息苦しさのなかで進む第五巻。現実に即して誠実に描くことが、救いようのない道へと続いてしまう、という意味では虚淵玄に近い作風なのかもしれない。抱えるもの、秘密にしないといけないものが多くなりすぎて、ちょっとしたカタルシスも許さない感じになっているのはどうかとも思うが……。本当に救われる未来が見えない。続きを早くお願いします。