柴田勝家 『走馬灯のセトリは考えておいて』 (ハヤカワ文庫JA)

『じゃ、これが私なりのお葬式だから。みんな、楽しんでいってね!』

こうして彼女のラストライブが幕を開けた。すでに死んでいる彼女が、生前の意思を残したバーチャルアイドルとして歌う最後の時間。

引退するのは、私たちの世界――この世。

コロナ禍によってオンラインで開催されるようになった福男選び、その後の歴史を描いたルポ「オンライン福男」。「信仰が質量を持つ」という思考実験に関連した論文、「クランツマンの秘仏」。生物が絶滅した地球でかつての生活を再現しようとした異星種の生活を描いた「絶滅の作法」。人間に寄生し月や火星にまで版図を広げた宗教性原虫の生態に関する小論文「火星環境下における宗教性原虫の適応と分布」。なぜかSFマガジンに掲載された、PS2版『戦極姫』のプレイ日記「姫日記」。ライフログから再現されたバーチャルアイドル、そのラストライブの舞台裏「走馬灯のセトリは考えておいて」

書き下ろしの表題作を含む短編集。やはり表題作が白眉か。技術的には現在の延長線上にあり、古い死生観と新しい死生観が交わった社会で“魂”の在り処を問う。作者が柴田勝家になったきっかけを描いた「姫日記」と合わせて、作家柴田勝家の原点と現在地を一冊にまとめた作品集ということにもなるのかな。そこを理解するにあたって、簡潔でわかりやすい解説も良かったと思う。良い短編集でした。