セミの声と扇風機の稼働音で満たされていた部屋に、ぎい、ぎい、とパイプ椅子の軋む音が加わる。
生徒指導室に人が戻ってくるまで、ぎい。ぎい、と西園は音を鳴らし続けた。
文化祭が終わり、平穏を取り戻しつつある11月初頭。クラスメイトに避けられがちだった汐も、徐々に受け入れられつつあった。そんななか、クラスの問題児、西園アリサが、東京からの転校生、世良と衝突する。
「誰かとぶつかってばかりじゃしんどいよ」
哀れみを含んだ声音。
余計なお世話だ。
「そうですね」
廊下に出ると、私は後ろ手でドアを閉めた。
変化の中で怒りと苛立ちを募らせ、「クラスの元女王様」は歯車を大きく狂わせていく。シリーズ三巻は、受け入れられつつある変化を受け入れられず取り残された人々の話。揺るがぬ自己を持ち、トリックスターとして存在感をどんどん大きくしている世良と、舐められないように気を張り、自暴自棄になるかわいそうな西園アリサの対比があまりに鮮やかに、残酷に描かれていた。それぞれが持つそういった強さと弱さのグラデーションが「人間味」というやつなのかな……。一筋縄ではいかない、本当に良い青春小説だと思っております。