鳴海雪華 『悪いコのススメ』 (MF文庫J)

僕の口の中で、僕の舌と胡桃の舌が複雑に絡み合う。唾液を混ぜ、お互いの過激な部分をべろりと撫でて刺激する。その動きは、粘膜に接触する異物を押し返そうとしているようでも、干渉してくる相手を蹂躙しようとしているようでもあった。

熱い。粘着質な水音と、荒い呼吸音だけが部屋の中で響いている。

舌の動きが激しくなるにつれて、胡桃は僕の後頭部の髪を強く握った。

つられて僕も胡桃の背中のワイシャツを強く握る。

教師による暴言、人格否定、学力差別。歪んだ価値観が当たり前のこの進学校の屋上で、夏目蓮はタバコを吸っていた。それはたったひとりの小さな反抗。そこに現れたのはひとりの後輩、星宮胡桃。すでに退学することを決めていた彼女は、最後に学校への復讐に協力するよう持ちかける。

タバコとキスが結びつけたふたりの校内テロリストは、手を取り合って復讐へと堕ちてゆく。第18回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞受賞の、「青春ピカレスク・ロマン」。暴言と成績で生徒たちをコントロールするような歪んだ学校をぶっ壊す、というテーマは青春もののライトノベルだとそれなりにあると思っている(『バカとテストと召喚獣』とか)のだけど、洗脳や依存までを真に迫った描写で突っ込んで、ド直球で向き合った作品はかなり珍しいのでは。誰とも共有できない価値観を各々で抱えながら、ふたりきりの部室でキスを繰り返し、学校への復讐の計画を練る。薄暗くてインモラルな、モラトリアムの有り様は、端的に言ってとてもエロいですね。価値観の歪んだ学校で、歪みきれなかったふたりの物語は、セカイ系の正統な後継者なのかもしれない。とても良いものでした。