朝依しると 『VTuberのエンディング、買い取ります。』 (富士見ファンタジア文庫)

魂の想いは当事者になって初めて思い知った。

この結末は酸鼻のきわみだ。

VTuberが引退するというときには、とくにファンの間で通夜が始まる。その悲しみの声はファンが多いほど膨れ上がり、阿鼻叫喚の中で見送られることになるのだ。

しかも、その声は死んだ魂にも直接届いてしまう。

VTuber、夢叶乃亜。彼女を推すことに青春のすべてを捧げていたトップオタの高校生苅部業は、乃亜の大炎上と引退によって、一夜にしてその人生を一変させることになる。それから一年。ショックから髪が白くなり、高校を休学していた業のもとに、かつて乃亜の推し仲間だった少女が現れる。

第35回ファンタジア大賞大賞受賞作。「35年の歴史の中で、『ファンタジー』と『バトル』要素がない初めての〈大賞〉受賞作」は、推しの最期のプロデュースを通じて「魂」の救済と再生を描いた物語。VTuberの中身という意味の魂でもあり、文字通りの「魂」でもある。

現在のインターネットやVTuber、「推し」の概念を当事者性を持ってリアルに、そして非常に抑うつ的に切り取っていると思う。VTuberの引退、あるいは「死」の持つ重みへの、ある種の暗い情熱を強く感じる。なにせ、セクハラを繰り返すプロデューサーを炎上させようというのに「今はこの程度のセクハラ発言じゃ炎上しないから」と言って、過去の人種差別的発言を掘り起こし、さらに上海のオタクの協力を仰いでビリビリでのイベント直前に放出するという。作中ではYoutubeから質問箱まで、もろもろのインターネットサービスがほぼ実名で登場する。そういう意味でもリアリティと「現在」のスナップショットを感じさせる物語だった。