榛名丼 『レプリカだって、恋をする。』 (電撃文庫)

私は、ベッドで眠ったことがない。

布団を庭の物干し竿に干して、お日さまの光をたくさん浴びせたことはある。夕日が沈む前に、急いで取り入れたことだって。

でも、ベッドに敷き直した白い布団の感触を知らない。

想像するとドキドキする。横になったら、どんなにふわふわするんだろう。

体調の悪い日。日直の日。定期テストの日。愛川素直が学校に行くのが億劫な日に呼び出される、素直のために生きることが使命の分身体(レプリカ)、それが私。素直が七歳のときに突然生まれてから、一緒に生きて成長して十六歳になっていた私は、恋をしてしまった。

名前も姿も借り物の、空っぽだったはずのレプリカの、ある夏の恋。第29回電撃小説大賞受賞の、「とっても純粋で、ちょっぴり不思議な青春ラブストーリー」。ちょっとした所作だとか、海や動物園の情景だとか、感情の揺れ動きだとか、あらゆるテキストがみずみずしくて美しい。「おはよう」の言葉のやわらかさ、腕を引っ張ったときに鳴る関節の音、「自分のプライドを守る術を細かく身につけている」、怪物のように黒い海。ものすごく観察して観察したうえで、大切に言葉にしているのだということがイヤというほど伝わってきた。大賞にふさわしい、本当に純粋で素敵な恋物語だと思います。