五月雨きょうすけ 『クセつよ異種族で行列ができる結婚相談所 ~看板ネコ娘はカワイイだけじゃ務まらない~』 (電撃文庫)

結婚の革命――――封建的な社会システムの維持のための結婚から、人間の自由意思を尊重し幸福を追求するための結婚への転換。それは世界の構造そのものを変えてしまいかねない大それたことである。

神によって造られた十七のヒト族は、長きにわたる種族間戦争を終え、実験都市ミイスを建造した。そこは、すべてのヒトが平等に暮らすことを目指して造られた社会。田舎から出てきたばかりの猫人族(レオーネ)の少女は、ミイスの結婚相談所〈マリーハウス〉で新入りスタッフとして働くことになる。

「身体的特徴は勿論、文化も価値観も異なる種族を代表する者たちが一同に会している。しかも議論がまとまり、全ての種族が同じ方向を見据えている。この光景こそが私たちが望んでいた世界の形だ。ともに歩んでいこう。十七種族の同胞たちよ」

第29回電撃小説大賞金賞受賞作が描くのは、十七の異なるヒトが共同社会を送る実験都市、とある結婚相談所から始まる「結婚の革命」、そして世界そのものの復興と変革。要は婚活を中心にした『ズートピア』のような小説ではある。

異世界コメディのお約束もいろいろと交えて描くのは、十七種族の間に、また戦前・戦中・戦後の世代間にある価値観のずれや変化。各種族内で使われることわざや格言、軽い気持ちで言った異種族への侮蔑の言葉が想像以上に相手を傷つける様子。そんな、「多様な姿と価値観を持った」ヒトが、「許容と理解」を示すきっかけとなる物語を「結婚」にまつわるドタバタを軸として描く。

「自由とは、長耳族(エルフ)鉱夫族(ドワーフ)が愛し合っても咎められないことだ」という一言がこの作品を端的に表していた。長いタイトルから良い意味で裏切られる、テーマと思想の込められたとてもよい作品でした。