塩瀬まき 『さよなら、誰にも愛されなかった者たちへ』 (メディアワークス文庫)

「だって、世界はこんなにも広いのよ。娘を一番に愛せない母親がいたって、おかしくはないでしょう?」

賽の河原株式会社。就職先を決められないまま大学を卒業した23歳、佐倉至がようやく就職を決めたその会社の事業は、亡くなったひとから六文銭を受け取って三途の川を渡すこと。このへんてこな会社で船頭見習いになった至は、様々な事情を抱えた死者と出会うことになる。

誰にも愛されないまま逝ってしまったひとたちは、なんのために生きていたのか。純真で不器用な青年が、仕事と出会いを通じて手に入れたものと与えたもの。第29回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞、「誰にも愛されなかった者たち」へ向けたすこしおかしなお仕事小説。とにかく書きたいテーマがあって、そこに肉付けしていったように見えた。この世界の宗教観はどうなってるんだという疑問が最初から最後まで残り続けるし、そういう意味では「うまい」小説ではないのだと思う。あとがきまで含めて嫌いになれない、生と死と愛の物語でした。