映画の世界は縮小再生産だ。一〇〇年経って面白い映画は作られなくなり、人々は映画に対して諦めに近い感情すら覚えている。魂というものを信じるほど映画がつまらないなんて、本当に恐ろしい。でも、それが真実だったとしたら? 映画には霊があり、自分達のような見にくい懐古の徒が、未来の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を殺しているのだとしたら?
私は少し考えてから、言った。
「だとしたら、人間は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけ観てればいいんだ」
死体を飲み込みその愛を引き受ける謎の巨体「回樹」。言葉を骨に刻むという、何の役にも立たない技術が人々にもたらしたもの「骨刻」。「映画の魂」の輪廻転生を描く「BTTF葬送」。すべての死体が不滅になった世界で、死体はどのように扱われるか「不滅」。1741年、貧乏白人と黒人奴隷の酒場に宇宙人が降り立つ「奈辺」。「回樹」と対をなす愛の物語「回祭」。六篇を収録した短篇集。「愛」と「埋葬」が共通するテーマと言っていいんだろうか。トンチキなアイデアからここまで切なく、ここまでの数の絶望的な「愛」の物語が生み出せるのはほんとうに恐ろしい。この本を象徴する書き下ろしの「回祭」と、ひとつ毛色が違う「奈辺」が好きだな。間違いのない傑作短篇集だと思います。