僕はかわいい。
今日も僕はかわいい。
よし!
鏡の前で、はっきり声に出して、パンと頬を両手でたたいたら、もっちりした白い肌がはじけた。
優希(78)のモーニングルーティンだった。
社会信用スコアがいきなりゼロになり、一日にして社会からはじき出された男の悲喜劇「バズーカ・セルミラ・ジャクショ」。社員の殺害が制度として組み込まれた会社を描く「生命活動として極めて正常」。超体育会系シンデレラ「踊れシンデレラ」。男しかいない老人ホームで「姫」として君臨する老人が新入りの老人をなびかせようとする「老ホの姫」。ポンコツとなってしまった元兵士の老人と、ポンコツガイドロボットが、戦争博物館で再会する「手のかかるロボほど可愛い」。2020年代日本、追放されたくて好き勝手やってるのになぜか追放してくれない「追放されるつもりでパーティに入ったのに班長が全然追放してくれない」。人身事故率が異常に高い鉄道運転士の苦悩と人間関係を描いた「命はダイヤより重い」。
カクヨムとはてなブログ掲載作に書き下ろしを加えた作者初の短編集。人間関係というものを、クソ真面目にやったバカSF。だと思うんだけど、読んでいるとだんだんと元気が吸われていく。「人間関係」の解像度の高さからくる、社会描写の換骨奪胎というか、取捨選択というか。そういうのが無茶苦茶うまい。シニカルだったり皮肉が効いてたり、それだけではないと感じた。「バズーカ・セルミラ・ジャクショ」、「踊れシンデレラ」、「追放されるつもりでパーティに入ったのに班長が全然追放してくれない」が好みかな。いずれ劣らぬ異様な作品の並ぶ、異様で良い短編集でした。
yashio.hatenablog.com