八目迷 『ミモザの告白5』 (ガガガ文庫)

自由とは、本能の奴隷で。

普通とは、価値観の押しつけで。

恋愛とは、傷つけ合うことの承認で。

何気ない言葉に隠れた暴力性に気づいたとき、息が詰まって、何も言えなくなる。

「なんも分からん……」

俺の声は、トンネルに入ったときのごおー、という反響音にかき消された。

咲馬の告白から、汐と咲馬は付き合うことになる。普通の恋人のように、ふたりは一緒に過ごす時間が増える。高二の三学期、北海道での修学旅行が近づきつつあった。

冬の北海道での修学旅行は、誰も予想しなかった方向へと向かう。帯に曰く「恋と変革の物語は終わり、新たな時代がやってくる」。ひとつの青春のピリオドを描いた最終巻。修学旅行でのアクシデント、未整理のまま赤裸々にされたいくつもの本音、「普通」に生きることの意味。からの、ラストが本当に素晴らしかった。

俺が階段だと思って上ってきたものは実はエスカレーターで、汐は息を切らしながら本当の階段を一段一段上っている……そんなイメージが頭に浮かんだ。俺がなんとなく享受している日常も、汐にとっては努力してようやく得られるものなのかもしれない。そう考えると、胸が痛んだ。

ふたりをはじめとした子どもたちはもちろんのこと、生徒たち、子どもたちのことを考えて守ろうとする先生や大人たちの確かな存在感も良かったし、何より最後の最後までトリックスターを貫いた世良の存在感も良かった。もし世良がいなかったらぜんぜん違う小説になっていた、というか話自体が動かなかったのではないかな。過不足のない完璧な最終巻だったと思います。お疲れ様でした。全五巻とさほど長い小説ではないのでみんな今からでも読んでほしい。