「じゃあ、俺は誰なんだ?」
「珠雄さんの意識が消滅した後にその肉体に生じた、別の存在ということになります」
察しは付いていたが、改めて他人の口から聞かされると重みが違った。
「そして、あなたのような存在は、思考実験から名前をとってスワンプマンと呼ばれています」
50万円の報酬につられた高校生の芦屋珠雄は、知らぬ間に「意識の連続性を遮断する装置」にかけられる。何の自覚もない珠雄の前に現れた少女、七瀬由理は、その装置の行方を追っているという。装置によって珠雄はオリジナルとしての死を迎え、肉体と人格と記憶を引き継いだ別の存在=スワンプマンになったのだという。
第19回MF文庫Jライトノベル新人賞予備審査最終選考作。SFと哲学を衒学的に使い、対話を重ねることで意識の連続性や魂の存在や法について探ってゆく。学園異能小説としての味付けもあるけど、基本的には対話と理解の小説であり、思弁小説であると思う。前提からして理解(というより共感)するのが難しいひとも少なくなさそう(作中でも「理解できない人は本当にどう説明しても理解できない」と言われている)。
直近で読んだ本だと『ソリッドステート・オーバーライド』を連想したけど、たぶんずっと共感しにくいし、わかりにくいはず。けっこうな奇書だと思う。巻末の推薦コメント一覧の、柞刈湯葉のコメントがしっくりきた(おそらく興味が近いのだと思う)。誰でも楽しめるとは言わないけど、とても楽しい読書時間でした。
kanadai.hatenablog.jp