「……月兎だ。月に、兎と書く」
「月兎、かぁ……月兎、ゲット。ゲット!」
繰り返すたびに目を輝かせ、レイメイは身を乗り出した。
黒髪の隙間から、どこか懐かしい、石鹸のかおりがした。
「あたしはレイメイ。夜明けの黎明だ! よろしくな、ゲット! この調子でゲットのこと、もっとたくさん教えてくれよっ」
空に七つの異世界が出現して百余年。崩れた異世界から降り注ぐ砂に埋もれ、世界は砂の海へと化していた。テンドウ海賊団二代目団長、レイメイは、武装船団から奪った旧文明の異物のなかから、眠りについていた少年を見つける。
第18回小学館ライトノベル大賞優秀賞。ハーレム作りを目指す少女海賊と、百年のコールドスリープから目覚めた亡国の少年が出会う。砂の海によって国家というアイデンティティを喪失し、力ある者が支配する人類社会を舞台にしたボーイミーツガール冒険活劇。少年漫画五~六巻分のおいしいところを一冊に凝縮したような、濃密かつカラッとしたエンターテインメントになっていた。頭からっぽで楽しめる。良いものでした。