一緒に殺そうよ。まるでコンビニにでも誘うような、気やすい誘い方。お菓子を買うのと人を殺すのは、わけが違うのに。数日前まで光に「人を殺すってどういうことかわかってるの?」なんて言っていた私は、その悍ましさを完全に忘れている。
暑い夜だった。昼間のひどい日差しが蒸気のように夜に居座りつづけ、脳がふわふわ揺れて気分が悪くなる。
全部夏のせいだ。私が趣味の悪いゲームに乗ったのも、命を軽く扱うことに躊躇いがなくなったのも、悪いのは私じゃなくてこの夏だ。それでいいのだと、光が言った。
「母さんを殺してきた」。夜凪凛が元クラスメイトの夏乃光に告げられたのは、8月24日、終業式の朝だった。学校内ヒエラルキーの最上位にいた光は、人間関係の構築が下手な凛に、逃避行とゲームを提案する。ルールは8月31日までの一週間、殺したい人間を互いに一日一人ずつ殺すこと。
八月の最後の一週間、行き場をなくし、未来も希望もなくしたふたりの高校生は最後に向けて逃避行に出る。第18回小学館ライトノベル大賞受賞。殺人という禁忌にだんだん麻痺していく感情だったり、感情を表現し理解することができず、人間関係を構築することの難しさだったり、衒いのない言葉は良い意味でとてもシンプル。それでいて暗く複雑な心情を十二分に語ることに成功していると思う。誰かが言っていたとおり先祖返りした暗黒青春小説の雰囲気もあり、しかし間違いなく、現在の18歳の心情が現れた小説だった。表現したいことと技量のバランスが奇跡的に取れた印象もあり、新人賞大賞にふさわしい作品だったと思う。ぜひ結末まで読んでほしい。良いものでした。
心のどこかで、この夏は永遠なんだと思っていた。無意識に、そう思い込もうとしていた。
馬鹿だなと自嘲する。
どんな時間も、すべからく終わりを迎えるものだ。
でも、その終わり方に意味があるのだと信じたい。