献鹿狸太朗 『みんなを嫌いマン』 (講談社)

いつだって自分にはみんなしかいないのに、みんなには自分以外がいるという強迫観念が旋毛に照準を合わせて圧をかけた。おかしな話だ。至にしか守れない世界があるのに、至だけを守ろうとする世界はどこにもないのだ。今はひとまず感謝されているこの英雄行為だって、いつありがたみが薄れてしまうか分からない。スイッチ一つで電気がつくことに毎回頭を下げる人間などもうどこを探してもいないのだ。至は自分がいつ誰にも感謝されないインフラの一部になってしまうのかと怯えながら闘っていた。感謝の言葉がほしいわけではない。無意味にも思える自分のスーパーパワーを、ずっと忘れないで欲しいのだ。無理な話だとわかった上で、無謀な期待を捨てられないから何もされていないのに人生が嫌いになった。

ある日、突如としてスーパーパワーを手に入れた上原至は、「みんなを守るマン」として地球外生命体との戦いに身を投じていた。それは80億人の人類を救う孤独な英雄であり、一方的に奉仕するたったひとりの奴隷であった。至はいつまで世界を救い続けるのか。至に救いはあるのか。

永遠みたいなしじまに、液体窒素みたいな涙が永い永い時間をかけて流れ落ちた。限界だった。

「俺は一生助からない」

もう本当に、死んでしまいたかった。

「みんなを守るマン」は、大嫌いな人類のため、スーパーパワーで地球外生命体と闘い続けた。その根底にあるのは、反吐が出るような愛だった。いわゆる無償の愛や選ばれし英雄の幸福を描いた小説であることは間違いないと思うんだが、救うものと本当に救われるべきものが交錯し、描かれるものはあまりにもこの世の、現代の地獄。メンタルの調子がよくないときには避けるべき、劇薬みたいな小説だった。