四季大雅 『クラスで浮いてる宇良々川さん』 (ガガガ文庫)

「思うに、“桜の樹の下”というのは、“月の裏側”と一緒だよ。豊かな心というものは、暗闇の奥にも世界を持っている。桜の花と根と、月の表と裏とで、ようやくひとつの世界なんだ。たとえ病に臥しても、魂は遠くまで飛んで、ちゃんと美しいものに出会えるんだよ」

親父の話はきっと素晴らしかった。でも、僕の小さな心では、まだそれを受け止めきれなかった。大きな救いではなく、小さな麻酔が欲しかった。

鳥人間コンテストへの出場を目指す郡山市立翠扇高校飛行機部の部長、ハカセこと菊地一成は、突然の交通事故に遭い、パイロットとしての出場を断念せざるを得なくなる。代わりのパイロットを探す飛行機部員たち。クラスで物理的に浮いていると噂の宇良々川りんごさんをスカウトすべく声を掛ける。

やっぱり言葉はいらなかったのだ、と僕は思う。

僕らはただ、こんなふうに踊るべきだったのだ。

昼下がりのランドリーみたいに、ふしぎに清潔な、心地よい気だるさで。

ハカセ率いる愉快な飛行機部員たちと、元陸上部員でクラスで浮いてる宇良々川さんの、奇妙で爽やかで浮いてる青春。夢と現実、存在と非存在、verbalとvorpal。直接つながっている心と世界。言葉と愛と恋。アインシュタインと原爆と福島。ひたすら書きたいことだけを力技で書いている印象もまああるのだけど、それが許されるだけの筆力は間違いなくある。

ビジュアルが強烈に浮かぶ情景描写、癖の強い飛行機部員たちの個性、迫力とリアリティの感じられる鳥人間コンテストの描写と、読むべきところは多い。おそらく劇場アニメに向いていると思う。良い小説でした。