どうして、こうなってしまったのだろう?
この世界全体に、天真爛漫な少女を卑屈な農奴に変え、博愛精神に満ちた理想家を無慈悲な酷吏に変え、協力すべき者同士を互いに憎みあわせる、邪悪な力が存在しているとしか思えなかった。
21世紀なかばに文明は滅んだ。東京は赤い霧に包まれ、戻ってきた者はいない。山奥の僻地イリス沢では、旧世界に憧れる四人の少女、《イリス漫画同好会》が〈部室〉に集い、部活に青春にと勤しんでいた。
第12回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。文化が喪失して一世紀以上が経った世界。漫画の中にしか存在しない〈コミケ〉への憧憬を募らせる、文化部女子たちの部活ものにしてポストアポカリプスもの。文化なき小さな村落社会とそこに生きる少女たちを、ひとりの少女の大して広くない視点から立体的に、苛烈に描き出している。文化も文明も失った社会で、それぞれに立場と役割を与えられたモラトリアムの少女たちはどのような道をたどるのか。似たモチーフの作品はたくさん(それこそまんがタイムきらら誌とかに)あるけど、この掘り下げの方向はさすがになかったと思う。強烈だった。とても良かったです。
