野中春樹 『探偵気取りと不機嫌な青春』 (講談社ラノベ文庫)

別に俺が話すのは大した内容じゃない。物語の探偵のように、理路整然とした証明ができる訳じゃない。

――俺は、物語の探偵じゃない。

ただそういうのが好きで勝手に気取っていた自己中の探偵気取り。

そのことに気づいた今なら、大丈夫。

一年前、探偵気取りで身勝手な行動を取っていた高校生の朝河探は、逆恨みを食らって妹に大怪我をさせてしまう。それ以来、探は他人に関わることに抵抗感を抱いていた。ある日のこと、万引きの疑いをかけられようとしていた同級生、青山景の冤罪を晴らしたことから、ふたりの距離が近づく。

第18回講談社ラノベ文庫新人賞佳作。探偵気取りで誰かを傷つけてきた少年と、傷つけて傷つけられて、不機嫌な日々を過ごす少女の青春。出会ったことから、ふたりが抱えていた人間関係の誤解やすれ違いが修復されてゆく。派手なことは起こらないけど、登場人物それぞれに小さな救いと成長があることを静かに描いてゆく。そんな正統派の青春小説でした。