――主よ。
――これは、誰がための試練なのですか。
答えなど、知りたくはなかった。
九重彩音と桜庭真白。バプテスト派の中高一貫ミッションスクール、清葉女学院の片隅で、ふたりは密かに想いを育んでいた。ある日、倒れた真白は病院で【特発性性転換現象】の途上にあることを告げられる。真白は遠からず、生物学的な男性に変わる。
「信仰の歴史は常に、主の御言葉をまだ信じない方々とのせめぎ合いです。あなたひとりの雑言で揺らぐほど、
信徒 はか弱くありません」「……」
「何より私は、信徒である前に、あなたたちの先生です。もし主の御言葉を信じないとしても、私には遠慮なく頼ってください」
【特発性性転換現象】によって少女ふたりだけの世界は終わり、その純愛は歪む。あらすじから百合、あるいはジェンダーSFを想像していたけれど、どちらかというと信仰と世界の話だった。ふたりきりでいいと思っていた世界は、実はまったく違った形をしていたこと。人々は決して冷たいだけでも邪悪なだけでもないこと。主と信仰の懐の深さ。聖書を引用しながら、一貫して「信仰」と「世界」を描いていたのだと思う。とても良かった。今年のベストになるかもしれない傑作だと思います。
