石黒達昌 『冬至草』 (早川書房)

冬至草 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

冬至草 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

SF 短編集六編.医学・生物学的知見をベースにして雑誌のルポのように綴られ積み上げられる客観的情報に,理と情と持った人間の深いセンチメンタルが溶け込み,単なる「理系小説」とも純文学とも呼びがたいものへと昇華されている.それを最も体現しているのが表題作の冬至草」.報われなかった狂気は文学の,ラストに待ち受けるセンスオブワンダーは紛れもなく SF のそれ.芥川賞候補の「目をとじるまでの短かい間」は死に囲まれつつ淡々と過ぎる日常における感傷的な,それでいて乾いた死生観に息が苦しくなる.科学研究のありように対する皮肉の効いた問いかけ「アブサルティに関する評伝」はこの短編集で最もメッセージ性の強い作品? 私も元がつく理系なわけだけど,研究に携わるひとなら読んでなにか思うところがあるはず.
個人的には上記三編が良かったのですが,ほか三編,「希望ホヤ」「月の‥‥」「デ・ムーア事件」もそれぞれ素晴らしかったです.没頭しました.