旭蓑雄 『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい。 ~ふふん、私は今日からあなたの恋人ですから……!』 (電撃文庫)

「まさか、サキュバスなんてもんが、本当にいるとは思わなかったよ……」

「ふふん、浅はかなり人間……サキュバスの牙は、現代社会に深く食い込んでいます。それはもう――サーベルタイガーばりの長い牙がね!」

そいつ絶滅してんじゃねえか。

生身の女子に興味のない高校生・ヤスが同人誌即売会で出会った憧れの絵師・ヨミ.彼女の正体はいわゆるサキュバスであった.男が苦手で,イラストを公開して性欲を集めることしかできない落ちこぼれサキュバスのヨミは,三次元にまったく興味のないヤスを利用して一人前のサキュバスになろうと頑張るのであった.

生身に興味のない高校生と男嫌いのサキュバス,出会ってはいけないふたりがいろいろあって仲良く喧嘩する.ストーリーはタイトルに忠実で語るところは少ないけど,ヒロインの夜美がちゃんとかわいいのもタイトルどおり.敬語でドヤ顔だけどポンコツでいつも顔が真っ赤という.似たような話は正直いろいろあるけど,リーダビリティの高さもあってか牧歌的でストレスがない.ドヤ顔かわいいに振り切っていて,楽しゅうございました.しかし振り幅の大きい作家だよ.

瘤久保慎司 『錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」』 (電撃文庫)

錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」 (電撃文庫)

錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」 (電撃文庫)

「おいッ! 後悔すんなよ! 三秒後には、燃えカスかもしれねえぞ!」

「しない! いつ終わっても。君と一緒なら!」

キノコ守りの里が,アポロと名乗る赤髪の男に襲撃された.出会ったものを《都市ビル》へと変化させ,《都市化現象》を引き起こすアポロによって,全日本同時多発都市化テロが引き起こされる.滅亡前,三百年前の姿を取り戻すと同時に,現在の姿を崩壊させようとする日本列島.ビスコとミロは,「現在」を侵食しようとする「過去」と対峙する.

三百年後の世界を《2028年》が侵略する.愛媛から神戸,京都,忌浜へと,日本中で暴れまわるビスコとミロの一大活劇,第一部完! 相変わらず面白かった,と言いたいところだけど,三巻に入っていきなり雑になった印象は強い.詰め込んだアイデアの数々はどれも最高,しかし十全に表現するにはページがぜんぜん足りていない,というかなあ.ここで終わりではないとはいえ,あまりにもったいない.これほどもったいない小説はほかにないと思う.初夏に出るという新章に期待しております.

周藤蓮 『賭博師は祈らない⑤』 (電撃文庫)

賭博師は祈らない(5) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(5) (電撃文庫)

『喉を焼かれたくなかったです。痛かったです』

「だろうな」

『この国で、ひとりぼっちで、辛かったです』

「ああ」

かさぶたを剥がすような言葉。リーラの表情は変わらないのに、その目尻からつうと涙が一筋流れ落ちた。

『もの扱いされて、嫌でした。嫌です』

過去として書かれた言葉は、現在のものとして訂正されていた。

「いつか、また」.街を去った友人との約束を守るため,ラザルスはルロイ・フィールディング率いるボウ・ストリート・ランナーズと協力し,ワイルド商会と全面対立することを決意する.ワイルド商会を率いるジョナサン・ワイルド・ジュニアは,より大きな権力を手にすることで街の『整理整頓』と祖父の名誉回復をもくろんでいた.

予告されていたシリーズ最終巻.ボウ・ストリート・ランナーズとワイルド商会による勢力争いの結末と,賭博師の青年と奴隷の少女がそれぞれに選んだ道を描く.押し合いへし合いするそれぞれの勢力の思惑といい,見せ場であるギャンブルの場面といい,狂気と熱と緊張感がこの一冊に満遍なく込められている.「整理整頓」をはじめとした英国の社会制度の変化,奴隷貿易の廃止という背景に「狂気と紙一重の信頼」を織り込んだ,緻密な描写が本当に良い.読めば読むだけ惹きつけられた.一貫した愛と情熱を感じる力作だと思います.素晴らしい大団円でした.



kanadai.hatenablog.jp

藤田祥平 『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』 (早川書房)

手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ (早川書房)

手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ (早川書房)

虚構の世界においては、べつに誰も死ななくてもかまわないし、全員が死んでもかまわない。重要なのは、それが完結することだ。そうすれば、私たちは運命に落とし前をつけられる。さまざまなことに意味があり、この生は無駄ではなかったと感じられる。これこそが、フィクションの魔法だ。

そして、私たちの生もそういうものだろうと、私はずっと信じていたのだ。

これをあなたにどうやって説明したものか。

『Wolfenstein』,『EVE Online』に爪痕を残したネットゲーマーにしてライターの自伝的小説.5歳でポケモンを遊び,13歳で文学に出会い,中2で『Wolfenstein :Enemy Territory』を通じてゲームという呪いに取り憑かれ,高校を中退し,大学に入り,震災にあい,母が首を吊り,憂鬱症に取り憑かれる.現実と,もうひとつの現実であるゲームだったり物語だったりをほぼひとつなぎのものとして語ってゆく.レビューの文体ほぼそのままに小説を書いており,これが思っていた以上に目が滑る.語られる内容も合わせて,たぶん,刺さるひとと刺さらないひとがはっきり別れる小説なのではないかな,と思ったのでした.

ケン・リュウ編/中原尚哉・他訳 『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

「わしはもう余命いくばくもない。あと三、四百年生きられたら御の字じゃ」

玉蓮は皿の山を床に落とした。

「そんなのもう“介護”といえないわ! あんたの介護にあたしの一生が費やされるどころか、息子も孫も、十世代あとの子孫まで犠牲になるなんて。早く死んでよ!」

劉慈欣「円」は,秦の政王と荊軻が三百万の兵を利用したコンピュータを生み出す話.暗殺者というより学者肌,というかただの数学オタクと化した荊軻が楽しくて切ない.がらっと雰囲気を変えた「神様の介護係」もまたユーモラスで楽しい.あと個人的に良かったのは,陳楸帆「鼠年」,馬伯庸「沈黙都市」,郝景芳「折りたたみ北京」,夏笳「百鬼夜行街」かな.「折りたたみ北京」(2014年発表)では,三つの階層に分かれた近未来の北京で紙幣が普通に使われている描写があって,今の中国のスピード感が見て取れるのも興味深い.

ひとりを除いて80年代生まれの,現代中国作家の手による13篇にエッセイを集めたSFアンソロジー.こんな素晴らしいアンソロジーを編むのみでなく,現代中国の小説だからといって婉曲的なメタファーやアイロニーだけに目を向けると危険だよ,もったいないよと繰り返し警告し,読み方を教えてくれるケン・リュウに感謝したい.掛け値なしに,ハズレ無しのアンソロジーだと思う.