赤城大空 『出会ってひと突きで絶頂除霊!7』 (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! 7 (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! 7 (ガガガ文庫)

  • 作者:赤城大空
  • 発売日: 2020/09/18
  • メディア: Kindle版

いつも必死に誰かを助けようとするその横顔を隣から窺い見るばかりで。

そんな晴久を好ましいと思いつつ、自分は心のどこかで――嫉妬していたのだ。

古屋君はいままで、そんな顔を自分に向けてくれたことはないのにと。

童戸槐救出作戦を終え、いくつかの爆弾を抱えながらも訪れたいっときの平穏。晴久たちは逆ナンビーチと呼ばれる海水浴場に罰則労働に訪れていた。夏で海で水着。仕事を兼ねたお気楽なバカンスに、しかし白い災禍が忍び寄っていた。

平和なビーチの水着回を、白い巨根群が襲う。前巻ラストで波乱の予感かと思いきや、わりと平和なところに着地して始まった幕間巻。一般的なライトノベルの水着回よりは液体と肉体的接触が多いし、テキストの密度もそこらの水着回ではかなわないくらい濃い。今回はあれですが、新伝綺の系譜を継ぐ作品になると思って追ってます。

川岸殴魚 『呪剣の姫のオーバーキル ~とっくにライフは零なのに~』 (ガガガ文庫)

窓の外からかすかに聞こえる断末魔。

そして工房の中からは煮詰めたアンデッドの残骸。

外も内も地獄の様相。負けず劣らずこの世の終わりのような光景。

しかし、この光景こそが〈屍喰らい〉の新生にふさわしい。

没落した儀仗鍛冶師の家に生まれた魔法鍛冶師の少年テア・コルピは、王に献上するためのミスリルを求め、辺境のウィルディンヌ地方へ向かっていた。その道中、オークの軍団に襲われ、もはやこれまでと思われたテアを救ったのは、巨大な鉈と奇怪な仮面をつけた異形の女性剣士シェイ・カイルだった。

儀仗鍛冶師を目指していた少年は、呪われた剣を持つ少女に出会い戦場鍛冶師になる。ずっとコメディを書いてきた作者の新境地となるであろう「オーバーキリング・スプラッタ無双」。テーマ的に新境地なのは間違いないのだけど、テキストや話作りのスタイルを大きく変えていないのはあえてなのかな。いかにも作者らしい冗談やツッコミを交えつつ話をしていた相手が、その数ページ後にはあっけなく殺されている。なんかとても不思議な感じ。

戦場鍛冶師、否定刻印、呪具の製作と使用を生業にし、最後のひとりになった少数民族、自己主張強めでヒョウ柄を好む西のエルフ族といったファンタジー世界の道具立ても、オーソドックスながらしっかりしている。リーダビリティの高さは良い意味でそのままだし、果たしてこのままで進むのか。期待してます。

手代木正太郎 『むしめづる姫宮さん3』 (ガガガ文庫)

「私は姫宮凪と約束がしたい」

「なん……ですか?」

私は、どこかぼんやりしていました。

「四十年後、ここでふたりでハレー彗星を観る。そういう約束。ジャコビニ流星群のようにくるかこないかわからない、そういう約束じゃない。四十年後、必ずここに戻ってくるって、そういうハレー彗星みたいな約束」

天文部に入った凪を見て、何かをしなければと美術部に入った羽汰。しかし周囲の部員に馴染めず、自主的にやりたいことも見つからない。空回りする羽汰を、震災で亡くなった小学生の頃の友人が羨ましそうに見つめていた。

震災から8年後の東北を舞台に、虫の怪異と不器用な少年少女たちの青春を描いたシリーズ、完結巻。前を向くだけで精一杯、迷って迷って逃げて逃げて、その先で手に入れたものと失ったもの、変わったもの。卑屈で傷つきたくなくて、それでも自分を諦めきれない高校生の心情を丁寧になぞっていく。

震災という外的要因で、変わってしまったものもあり、二度と変わることができなくなってしまったものもあり。良いことばかりではないし前に進んでいるとも限らないけれど、生きていればとにかく変わることができるんだ、みたいな、肩に力の入らない自然なメッセージを受け取った。とても良い青春小説だったと思います。お疲れ様でした。

宮澤伊織 『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』 (ハヤカワ文庫JA)

老婆の姿がぼやけて、まったく違うものがそこに現れる。

互いにすがりつき、絡み合うようにして死んでいる猿のミイラ五体を芯として、無数の人間が蚊柱のように渦を巻いている。人間の形態をまったくとどめていないグロテスクな姿に、私は思わず怯む。ミイラの口が動いて、真っ黒な口腔から人の声が発せられた。

季節は秋。裏世界で閏間冴月の行方を探す空魚と鳥子の前に不穏な影がちらついていた。

人間の認識によって形を持つネットロアと、女子大生たちの様々な感情が複雑な渦を巻くサバイバルホラー第三巻。ヤマノケ、サンヌキカノ、自己責任系怪談という実話怪談をアレンジして、確かな恐怖を描いている。改めて読むと、似たようなサバイバルものの中でも、日常と非日常(異世界)の距離が特徴的な小説でもあるのかなあ。トラックよりもでかくて複雑なものにどつかれて裏世界へ、みたいな。「裏世界」という舞台装置を存分に活かした話作りをしていると思った。

石川博品 『あたらしくうつくしいことば』

あたらしくうつくしいことば

あたらしくうつくしいことば

  • 作者:石川博品
  • 発売日: 2017/12/29
  • メディア: Kindle版
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わたしたちの高校には教室と廊下をへだてる壁がない。ないのは必要ないからだ。光だとか視線だとか、まっすぐなのがわたしたちで、この世界だから、それをさえぎるものなど必要なかった。

廊下から見ていると、無数の手が、目が、口が動いて、まるで細かい雨の落ちる水溜りのようだ――そちらに動きがあったかと見る内に、今度はあちらが動きだす。一人のはなしがはじまったかと思えば、それが終わるのと待たずに向かいの一人がはなしをはじめる。会話が波紋のようにつぎつぎ起こりひろがって、どこが中心かわからなくなる。騒がしさに目がくらむ。

短編2篇を収録した2017年冬コミ発行の同人誌。京の大路で牛車に轢かれ、異世界へと転生した僧が聖典を求めて西へと向かう。「異世界求法巡礼行記」は、コミカルな仏教説話風小説。主人公の生草坊主っぷりと破天荒さが豪快かつ軽快で肩がこらない。

女子ろう学校に、経営破綻した学校からやってきた二人の転校生。異なる「ことば」を持つ少女たちは、あたらしい「ことば」を作ることを模索する。表題作「あたらしくうつくしいことば」はろう学校の少女たちを描く。このあたりは作者のお手の物。言葉を話せない少女たちの、あけすけで饒舌な語りが騒がしくて眩しい。