旭蓑雄 『シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!』 (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの! (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの! (電撃文庫)

「労働をおぞましいとは何です。勤労は国民の義務として、日本国憲法にも記載されているほどなんですよ。労働を馬鹿にすることは、巨視的に見れば日本を馬鹿にしているのと同じこと。反省してください」

ブラック企業勤務の三年目,堂道.働くことに至上の喜びを見出すワーカホリックの隣に,ある日引っ越してきたシノさんは,なぜか堂道を甘やかすことに必死なようだった.

ひとつ屋根の下.とにかく仕事がしたい社畜と,甘やかしたい堕落させたい○○のラブコメディ.「はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい。」の社会人バージョンというかな.基本的には同じ話と言ってもいいのではないかと思う.しかし,働くことが大好き! という堂道の心情に共感することが難しい.話の流れの不自然さというか気持ち悪さというか,文章とは別の部分で変な読みにくさがあった.



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はむばね 『ブチ切れ勇者の世界征服①』 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

ブチ切れ勇者の世界征服 1 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

ブチ切れ勇者の世界征服 1 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

「俺はもう、救世主じゃない。世界の敵だ」

優武は笑みを深める。

「そして君もまだ救世主とは言えない。力無き意思は往々にして無意味だ。事実、今戦えば武器を持っている君は丸腰の俺相手に触れることすらなく倒される」

高校生の須藤優武は異世界を救う勇者として召喚された.実に一ヶ月ぶり,二十七回目の召喚であった.須藤優武は受験生である.こんなお手軽に召喚されては受験勉強もままならぬと激怒した優武は,こんな異世界は征服してしまえと,誕生して間もない魔王に協力を願い出るのだった.

世界を26度救った勇者,27度目にして世界を滅ぼしにかかるの巻.人類の攻勢によって弱小勢力になった,誕生したばかりの幼女魔王の勢力を,救世主が守り立ててゆく.「ブチ切れ」と言いつつそれなりに冷静だし,実は「世界征服」が最終目標ではないのがミソかな.異世界で無双する小説ではあるけれど,落ち着いて読める話ではないかと思う.

深見真 『バイオハザード ヴェンデッタ』 (角川ホラー文庫)

バイオハザード ヴェンデッタ (角川ホラー文庫)

バイオハザード ヴェンデッタ (角川ホラー文庫)

人間の三大欲求のうち、ゾンビには食欲だけが残る。

ゾンビは眠らない。

性欲が残らないのはなぜだ?

実験のためにね、性欲を残したゾンビを作ろうとして……上手くいかなかった。

リビングデッドとはなんだ?

死者がよみがえるとはどういうことなんだ?

レベッカ・チェンバースが国際指名手配犯グレン・アリアスに拘束された.アリアスの目的は,ウイルスによるバイオテロを起こすこと.Bioterrorism Security Assesment Alliance(BSAA)のクリス・レッドフィールドとDivision of Security Operations(DSO)のレオン・S・ケネディはテロの阻止とレベッカの救出のためニューヨークへと向かう.

脚本家自らによる,同名映画の小説化.起承転結のくっきりした,アクション小説のお手本のような小説だと思う.導入はジャレド・ダイアモンドとサルトルのエピグラフから始まり,レヴィ=ストロースやJ・G・バラードを例に引きながら,人類社会に潜む邪悪や構造的な欠陥について,そして人類の存在について詳らかにしてゆく.アクションシーンももちろんお手のもの.小道具から思想まで,描かれるひとつひとつがピシッと決まっており,スタイリッシュでかっこいい.「男の子ってこういうのが好きなんでしょ?」と全編通して問われているかのような.バイオハザードに触れるのは初代ディレクターズ・カット以来でしたが,ちょう楽しかったです.

島武司 『俺と彼女の週間戦争①』 (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

俺と彼女の週間戦争 (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

俺と彼女の週間戦争 (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

お父さんの体中から、真っ赤な蒸気が吹き出した。僕の肌まで焼けそうなほど熱い、血の蒸気を吹き上げて、お父さんは蒸発するように形を失って……跡形もなく消えた。

蒸気になったお父さんは、火災報知器に吸い上げられて、ジリジリとサイレンが鳴り始めた。

一週間に一度,世界にはふたりの少女が現れる.世界を破滅させる力を持った少女たちは魔王と呼ばれ,畏怖されていた.破滅を防ぐ方法は,ひとりの魔王がもうひとりの魔王を殺すこと.

10億人の命とユーラシア大陸を一瞬で消し去った未曾有の大災害で両親を失った少年は,魔王への復習を誓う.その手段は,魔王の少女と擬似カップルになることだった.設定は面白いし,緊張感はしっかりとあるんだけど,いくらなんでも考証が甘すぎる.10億人と大陸がひとつ消えてから3年しか経っていないのに問題なく社会機能が維持されているし,世界をかけた戦いが一週間後にあるのに学園ものしてるしデートもしてるし.章ごとのテンションというかリアリティラインの落差が激しくて耳がキーンとなりました.

奥村惇一朗 『イー・ヘブン』 (講談社ラノベ文庫)

イー・ヘブン (講談社ラノベ文庫)

イー・ヘブン (講談社ラノベ文庫)

俺には肺がない。心臓もない、脳もない。そのうえ生前の記憶すらない。あるのはこの1年分の記憶と、この心だけだ。その1年間の人生と、努力と、シオと過ごした時間、全てを否定された気分だ。

そんなの、あんまりじゃないか……。

目が覚めると,レイジは知らない部屋にいた.そこは,電子的に造られた人工の死後の世界,「イー・ヘブン」.それから一年.失われた記憶とこの世界の謎を求めて,レイジは冒険を続けていた.

RPG風に構築された,魂を持たないアップロード生命たちの世界.そこに隠された謎と記憶.第4回講談社ラノベチャレンジカップ佳作受賞作.手堅くまとまった冒険ものといった風情.ネットゲーム風だけど,ゲーム的なところがあまりない(そもそもゲームではない)のは印象が良い.ただし,SFとしてはオーソドックスすぎてそれほど乗れなかった.肉体を失ったアップロード生命を,人工的な肉体にダウンロードする,みたいな話も少し触れるけど,一巻では触れる程度.よく言えばまとまった,意地悪な言い方するとおとなしいSFファンタジーでした.