川岸殴魚 『シスターと触手2 邪眼の聖女と不適切な魔女』 (ガガガ文庫)

「っていうか、なんすか、全裸の勇者って! おかしいでしょ」

「あくまでも異名よ。よく見て、正確には靴下だけ履いているから」

……本当だ! イブリルの言うとおり、よく見るとドナは靴下だけ履いている!

「だから、なんなんですかっ!」

アルスローン派のシスター・ソフィアたちは、パトロンのウルスラ伯にカリーナ王女を紹介され引き合わせられる。正教会に実質的に支配された王国に危機を抱く王女は、成人前の最後の休暇を、ソフィアたち邪教徒と行動をともにすることに選ぶ。正教会と邪教ことアルスローン派は、ともに失踪した女神アスタルテの行方を追っていた。

失踪した女神の姿を求めて「歪みのダンジョン」に挑む邪教徒たち、迫る全裸の勇者、不在の神と邪教のシスターの関係について。ベースはコメディなんだけど、ストーリーは思いのほか本格ダークファンタジーになってきた。作中で肌色が出ている時間がライトノベル史上でも稀に見る長さだと思うんだけど、そういうところも含めて、むしろギャグと肌色とシリアスがちょうどいいバランスになっているんじゃなかろうか。作者の今までのファンタジーと比べても完成度が一歩抜けていると感じています。

秀章 『純情ギャルと不器用マッチョの恋は焦れったい2』 (ガガガ文庫)

これを幸運と言わずに何と言う。

奇跡と呼ばずして何と言う。

強くそう思うからこそ、俺は改めて、筋トレに感謝した。

やはり筋トレは最高だ。

ダイエット計画を無事完遂した須田と犬浦。だがその裏では着実にリバウンドが進んでいた。「助けて、須田えも~ん!」。再びのダイエット計画を始めるふたり。季節は文化祭、そしてクリスマスに差し掛かろうとしていた。

秋から冬、ビッグイベントを経てふたりの仲は接近する。ギャルと筋肉の男女視点から描かれるラブコメ第二巻。サプライズはあまりないけど、さすがに手慣れたもの。シンプルで嫌味のない、ラブコメらしいラブコメだと思う。お疲れ様でした。

桂嶋エイダ 『ドスケベ催眠術師の子3』 (ガガガ文庫)

返される契約書を、俺は手に取った。

「ありがとう。そしてお疲れ様。ドスケベ催眠術師の子」

夏休み。ドスケベ催眠術師の子、佐治沙滋の前にひとりの少女が現れる。少女の名前は片桐瀬織――二代目ドスケベ催眠術師、片桐真友の妹にして、誰からも認識されない透明人間。セオリは、新興宗教とドスケベ催眠術が原因で離散してしまった片桐家をもとに戻してほしいとサジに依頼する。

誰からも認識されず、記憶すらされない少女の願いは、離散した家族をもとに戻すこと。家族の再会と、「ドスケベ催眠術師の子」ではなくなる佐治沙滋のそれからを描く。シリーズ最終巻。「青春ブタ野郎」シリーズへのリスペクトもコメられているのかな。ドスケベ催眠術師の「子」という呪い、合理的に生きるという生き方を、ふたつの親子、ふたつの家族を通して解いてゆく、という解釈でいいのかな。家族を書いた小説にもともと弱いというのもあるけど、しんみりとした、でもたしかな成長と変化が感じられるラストまで、とても良かったと思う。お疲れ様でした。

逆井卓馬 『よって、初恋は証明された。 -デルタとガンマの理学部ノート1-』 (電撃文庫)

思うに〈青春〉というのは、よくできた推理小説のようなものである。

その渦中にある当事者からしてみれば、自分が何を経験しているのかすらよく分からない。

すべてが終わって、取り返しがつかなくなってようやく、全体像が見えてくる。

。あのころの俺たちは馬鹿だったなあ、でもあれが楽しかったんだよなあ、なんてことを言いながら振り返って、人は初めて明確にそれを〈青春〉と認識できるのだ。

まるで頭脳明晰な名探偵がそばにいて、理路整然と推理を展開してくれるかのように。

高校一年の春。綱長井高校に入学した出田樟は、同じクラスになった岩間理桜と出会う。中学時代は化学部だった出田と、科学部だった岩間はすぐに意気投合する。部活への新歓が解禁され、出田は化学部への入部を希望する。理数教育に力を入れていた綱長井高校にはもともと理系の部活が五つ存在し、五つ合わせて「理学部」と呼ばれていたが、今では三つしか現存していなかった。

〈青春〉を解き明かす、青春学園ミステリの開幕。理系の部活にフォーカスした学園もの、しかもミステリで、生物部が主役になるのは珍しい気がする(他の部もおおいに絡んでくると思うが)。いかにもキャラクター化された理系の高校生たちに、理系ってこんなだっけ……? と思わなくもないけど、「今」、「学園もの」でないと出来ない青春小説に果敢に挑戦している感があった。計画的犯罪ならぬ計画的青春というのかな。続きがとても楽しみになりました。

エパンテリアス 『隣の女のおかげでいつの間にか大学生活が楽しくなっていた』 (スニーカー文庫)

「じゃあ私が要求するのは……」

「……ごくり」

何を要求される?

「私と一緒に寝ようぜ?」

「……は?」

佐々木健斗はこの四月に大学三年生になった20歳。大学入学以来ずっとひとりで講義を受けていた健斗の隣の席に、ひとりの美女が現れる。ちょっと変わった美女、伊藤奈月は、その日から健斗の隣の席に座ってはちょっかいをかけてくるようになった。

ぼっちの男子大学生に訪れた突然の変化と、それからの約一ヶ月の日々を描く、第4回カクヨムWeb小説コンテストラブコメ部門特別賞受賞。基本的にはタイトル通りのことを書いた、平凡な日々の話ではある。ぼっち男子の内面は噛み砕いていてわかりやすい。一方で、紙でまとめて読むには平坦な展開とテキストに難があるのと、主人公の魅力がいまいちわかりにくいのが欠点。個人的には欠点ばかりが目についたかな。