鴨志田一 『青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない』 (電撃文庫)

青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない (電撃文庫)

青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない (電撃文庫)

  • 作者:鴨志田 一
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: 文庫

今のご時世に至っては、他人の気持ちや気分がスマホひとつで無差別に飛んでくる。見ようとしなくても情報は世の中に溢れているし、無意識に何かに影響されていく。

知りたくなかったことでも、見たくなかったことでも、知ってしまって、見てしまったあとでは手遅れだ。

もう知らなかった自分に戻ることはできない。

知ってしまった自分が今の自分だから。

その自分と付き合っていくしかないのだ。

梓川咲太たちが大学生になって半年.同じ大学に通うアイドルグループ「スイートバレット」のリーダー,広川卯月の様子がおかしい.いつもド天然で,空気を読めない卯月が周りの空気を読んでいる.それは,久しぶりに聞く思春期症候群だった.

大学生になっても思春期は終わらない.前の巻から約一年半.受験生編や卒業編をあっさりとスルーして始まった大学生編(あとで回収する可能性は高いけど).空気を読めなかった少女が,空気を読めるようになって,強さと弱さを手に入れる話,みたいな.実に青臭く,それでいて現代的な,よい青春ものだと思う.今回は環境の変化や一年半の新たな出会いを描いたプロローグという趣が強かったかな.引き続き楽しみにしてます.

二月公 『声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない?』 (電撃文庫)

声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない? (電撃文庫)

声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない? (電撃文庫)

  • 作者:二月 公
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: 文庫

おかしな話だ。

作品に声を吹き込むことに憧れたのに、要求されるのは声以外のコトばかり。

そこに全く疑問がないわけではない。

歌種やすみ(芸名)こと佐藤由美子は駆け出しの新人声優.学校では芸能活動のことを隠し,ギャルとして通っていた.そんなある日,同じ高校生声優の夕暮夕陽とラジオをすることになる.夕暮夕陽は同じクラスの地味な女子,渡辺千佳だった.

同じクラスで同じ職業,それなのに学校では接点がなくてそりも合わない正反対のふたりは,ラジオは理想のクラスメイトを演じることになる.新人女性声優の百合営業小説という,ピンポイントなテーマで大賞を獲った第26回電撃小説大賞・大賞受賞作.ギャルと地味女子,芽の出ない駆け出しと人気出はじめ.人気,実力,コネ,アイドル売りにセット売り.声優という仕事へのスタンス.いっしょの仕事を通じてクラスメイトでありライバルでもあるふたりの考えと関係は変化してゆく.

スポ根ものようなふたりのライバル関係と友情,そして職業人としての冷静なプロ意識が入り混じったストーリーは読んでいて小気味良い.アイドルものとスポ根の相性がいいのは今では周知の通りだけど,スピード感がかなり早いのはいかにも現代的だと思う.幕間のストーカーやらネット炎上のくだりは唐突感があったけど,これもまあ現代的ではあるのかな.良かったと思います.

旭蓑雄 『シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!②』 (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!(2) (電撃文庫)

シノゴノ言わずに私に甘えていればいーの!(2) (電撃文庫)

  • 作者:旭 蓑雄
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: 文庫

「ユニコーンって呼ばれてる天使よ。人に純潔でいるように求める、はた迷惑なやつら。でも自分たちも異性恋愛禁止だから、こじらせきったやつが多いのよ」

「……天使なのに?」

「そう。異性愛がダメでも、同性愛ならオッケー! みたいな」

「……なんか、いままで抱いていた天使のイメージと違いますね」

怠惰の悪魔シノは,社畜リーマン拓務を堕落させるべく,引き続き頑張っていた.ある日アパートの隣の部屋に,全体的に白いひとが引っ越してきた.勤労の天使,ルルと名乗る白いひとは,自分を甘やかしてくれる者を求めていた.

勤労上等の社畜と怠惰の悪魔の同居生活に天使勢が乱入する第二巻.生真面目で甘やかしたい堕落の悪魔と,動くことさえ面倒くさいニートな勤労の天使が出会ってしまう.星新一の「平和の神」をベタ甘なラブコメにしたみたいな話.プラトニックの縁でラブラブしているふたりの様を眺めたり,夢見りあむみたいな天使が気持ち悪かったりする様をただただストレスなく読むといい.ひたすらラブラブでした.



kanadai.hatenablog.jp

小山恭平 『渋谷隔絶 東京クロノス』 (講談社タイガ)

渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

渋谷隔絶 東京クロノス (講談社タイガ)

  • 作者:小山恭平
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: Kindle版

「いつから自分が人殺しになっていたのかわからなくて悩んでる? あの時だよ、才。義侠心にかられ、僕への協力を自ら申し出た瞬間から才は地獄に落ち始めていたんだよ。義侠心と愛国心を抱いてしまった人間からは、正常な判断力が消えていく。倫理を溶かす劇薬なんだ、あれは」

渋谷を地盤に,代々政治家を輩出してきた神谷一族は,巨大な鏡の壁に囲われた無人の渋谷に囚われていた.ここから生きて出る方法は,週に一度行われる「剪定選挙」で,最後の一人になること.

最愛のひとを守るため,あなたは誰を殺しますか? 隔絶された渋谷の街で,政治家一族の「剪定選挙」が始まる.PS4用VRゲーム『東京クロノス』のシナリオライター自らの手によるスピンオフ,あるいは前日譚.弱者を切り捨てることをよしとしてきた神谷一族を嫌悪し,神谷を変えたいと願う10歳の次期当主の物語.これぞデスゲーム! といった露悪的な語りがとても楽しい.

自分が嫌悪してきた人間が何を考えていたのか,そして信じていた,敬愛していた人間が何を考えていたのか.10歳の少年が直面するにはあまりにもあんまりな事実と裏切りの数々と,とてもトンチキで悪趣味極まる世界の有り様に変な笑いが出た.生き延びた少年がどうなるのか,興味がつきない(PSVRは持ってないですが……).ともあれ良いものでした.

五月什一 『ゲーマーズ・ハイ 影の王者の後継者』 (MF文庫J)

ゲーマーズ・ハイ 影の王者の後継者 (MF文庫J)

ゲーマーズ・ハイ 影の王者の後継者 (MF文庫J)

  • 作者:五月 什一
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: 文庫

「ゲームは全てルールという約束事に基づいて成立しているから。約束を破るということはその大前提に反するということ。だからゲームを生業とするギャンブラーはせめて自分のした約束ぐらいは守らなくてはならない」

「忘れるなよ、サキト。約束は絶対に守れ」

裏世界で伝説の賭博師と呼ばれた祖父を持つ高校生,上蔀遡人.スマホのオンラインカジノを趣味に遊ぶ普通の高校生だったサキトの前に,ある日エレーナと名乗る謎の美少女が現れる.エレーナの招待状に誘われ,裏カジノへ赴いたサキトは,そこであっさりと賞金の一億円を手に入れる.それがすべての始まりだった.

第15回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞.余命わずかな少女を救うため,そしてギャンブラーとして「約束」を果たすために少年は裏の世界でギャンブルに挑む.タイトルでてっきりゲーム小説だと思ったらカジノ小説,あるいはギャンブル小説だったでござる.展開が非常にスピーディーで,一本のエンターテイメント映画のように最後までスピードが落ちない.ゲームに勝つことで結果的に相手を殺してしまったことと,ギャンブラーの矜持として「約束」を大切にすることの整合性がわかりにくい(うまく消化しきれてない気がする)だとか,見ていくと粗もかなり多い方だと思うんだけど,勢いがあって読まされた.