松屋大好 『無双航路 3 転生して宇宙戦艦のAIになりました』 (レジェンドノベルス)

「お姉ちゃん! 助けて!」

「ごめんね。ごめんねトゥリヌス」ソハイーラが顔を覆った。本質的には何も“感じて”おらず、プログラム的な反応にすぎないとわかっていても、心に来るものがあった。

質量弾が命中した。

クオリアの消えたソハイーラの身体に入り,皇帝として振る舞うことになったアサガヤシン.ローマ帝国を乗っ取ったオクタヴィアヌスと対峙するアサガヤシンに,帝国と敵対する連合の法王インノケンティウスが接触してくる.

巨大AIである“月”を従えた帝国に立ち向かうのは,AIであり人間であるアサガヤシン.転生もの×スペースオペラ第三巻.明言はされていないけどお話的には一区切りなのかな.最後まで「無双」からは程遠かった.

高次元に存在し,すべての人類が繋がっているという「クオリアワールド」.聖櫃の中にある地球.作中における転生のメカニズムは「筐底のエルピス」と共通したところもあるのかな.スペオペならではの,文字通り次元の異なる解決法には眼を見張った.タイトルをきれいに回収するエピローグもとても良いし,アイデアの数々は本当に読むところが多い.都合のいい展開もそれなりにあるけど,大時代的なところにも敬意を払いつつ,スマートなアップデートに成功した,とてもよいSFだと思う.読者を選ぶであろうテーマとタイトルに食わず嫌いをしないで,初心者もうるさいひとも,騙されたと思って読んでみるといい.楽しかったです.

伊藤ヒロ 『異世界誕生 2007』 (講談社ラノベ文庫)

異世界誕生 2007 (講談社ラノベ文庫)

異世界誕生 2007 (講談社ラノベ文庫)

自分の知っている倫理観や常識とはまったく違う。友人や家族が、自分の知らないところで、そんな風に生きていただなんて。

世界が、がらがら崩れていくようだ。困惑や不安が彼女に嘔吐させていた。

(よく、口ではキモいなんて言っていたけど、本当に気持ち悪いってのは、こういうことだったんだ……)

「涼宮ハルヒの憂鬱」と「ゼロの使い魔」が立て続けにアニメ化して大ヒットしていた2006年が過ぎ去って,2007年春.「タカシの冒険」が「インターネット発のラノベ書籍化」として一部で話題になっていた頃,作家志望のニートがひとり自殺しようとしていた.

難病に伏せる幼なじみの妹に,物語を語って聞かせる日々.中学生の日常は大きな変化を迎え,ニートは死を決意する.前作「2006」に続き,「物語」にできることを中学生の視点から語ってゆく.描かれる出来事は「2006」とはまた別の意味で生々しくえぐい.「小説にはストーリーもキャラクターも重要ではない」という考え方.人間のクズだった兄がしていたこと.他人の倫理観に触れて見え方の変わる世界.救っているつもりでいた相手に救われていたこと…….ご都合主義では終わらない.

作中と同じ頃に流行り始めた難病ものやケータイ小説へのオマージュも込められているのかな.調べてみたら『恋空』の発表が2005年,書籍化が2006年,映画化が2007年なのね.きれいに終わった「2006」の続きって何を書くんだと思っていたけど,読んでいくうちに,残っていたモヤモヤがいくらか晴れた気がした.良かったです.



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かめのまぶた 『エルフ学園のラブコメは卒業できない』 (ファミ通文庫)

エルフ学園のラブコメは卒業できない (ファミ通文庫)

エルフ学園のラブコメは卒業できない (ファミ通文庫)

「確かに遠くまで来たけど、ここから先へは行けないんだよ。だから、本当に遠くへ行きたいんなら、今は帰らなきゃなんない」

そんな言葉が、すらすら俺の口から出てくることに自分で驚く。

ちょっと前の俺なら、こんなこと言えなかったし、思っても見なかったはずだ。

言葉も通じない異世界に飛ばされて一ヶ月.森で死にかけていた普通の高校生,空州剛は五人のエルフの少女たちに助けられる.少女たちの通うエルフの学校に世話になることが決まった剛だったが,校長から出された卒業のための課題に少女たちと取り組むことになる.

五人の少女とそれぞれ協力して,エルフの学園を卒業しよう.一風変わったミステリだったデビュー作から一転,オーソドックスな学園ファンタジーラブコメ.細かいところに気を配っているし,お約束をなぞるだけではない.というのは分かるのだけど,それ以外に書くことがあまりない.あとがきにある「殺伐とした作品」が読みたかった……というのはないものねだりだけど,あえてこれ,というところも薄いかなあ.



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枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #8』 (スニーカー文庫)

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#08 (角川スニーカー文庫)

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#08 (角川スニーカー文庫)

「実際に虚偽か否かなど、凡俗の頭にゃァ難しすぎて、構ってられやしません。開け慣れた引き出しに収めて、知った気になれるかどうか。それがあたしらにとっての『ほんと』で、それ以外があたしらにとっての『うそ』だ」

〈十一番目の獣〉(クロワイヤンス)の打倒と英雄の誕生によって38番浮遊島は歓喜に沸いていた.その水面下で,終末は着実にリミットが迫っていた.明らかにされた滅びを避ける方法は,自分たちの手で浮遊大陸群(レグル・エレ)を破壊し沈めること.

最終章開幕.妖精たちの父親とひねくれ者の魔王,すでにこの世にいないふたりが,新しい世界を創造しようとする〈最後の獣〉(ヘリティエ)の前に現れる.終末を前にした世界を救うために何を犠牲にするのか,誰が手を汚すのか.現在と過去と未来と,オーソドックスで普遍のテーマを群像劇のような手法で語る.現代日本の問題を反映したのかな? と思しき描写が今までに比べても多めだったように思う.

世界を救おうとした「無私の聖人」の真の思惑と,それを許さないふたりの死者.〈十七種の獣〉もそうだけど,明確な「敵」というのとはまたちょっと違うんだよね.独特のストーリーテリングだよなあと改めて思ったことでした.

三鏡一敏 『ヴァルハラの晩ご飯 ~イノシシとドラゴンの串料理~』 (電撃文庫)

ヴァルハラの晩ご飯 ~イノシシとドラゴンの串料理~ (電撃文庫)

ヴァルハラの晩ご飯 ~イノシシとドラゴンの串料理~ (電撃文庫)

「エインヘリヤルらの数はもうじき二十万に手が届くという。海神エーギルから買い占めた宴用の食糧も、底を突くのは時間の問題。更に買い付けようにも備蓄の黄金が持たんし、そもそもエーギルが持つ食糧とて無限ではない。どうにか打開策は出せんものか……」

ここはヴァルハラキッチン.セイことセーフリームニルは,一日一回死んでも生き返るという己の体質を利用して,エインヘリヤルたちの食糧をやっていた.ヴァルキューレ九姉妹やアース神族たちに仕えながら日々を送っていたセイは,いきなり現れたロキに振り回されることとなり.

第22回電撃小説大賞金賞受賞.北欧神話世界の日常をオールスターで描く「“やわらか神話”ファンタジー」.特に変わったことが起こるわけではなく,固有名詞をググったり出典を調べながら読むのが楽しいタイプの小説.北欧神話って知ってるようで,実は知らないことがかなり多いんだなあと思い知ること請け合い.空気を読まないネットスラングとか,ちょくちょく挟まれる露骨なおっぱいネタに水を差されることが多いのが気になった.悪い小説ではないんだけど,変なところで読者を選ぶ話になっている.ちょっともったいないような.