軍を率いた者たちは政権を奪取し、富と名声を勝ち得ることができるかもしれない。
次の世代の子どもたちは、戦争のない平和な島で暮らすことができるかもしれない。
だが実際に戦場で血を流した彼ら兵士は、これから幸せになれるのだろうか? わからなかった。グリンダには、消耗品として使用される彼らの幸せを約束できない。
内戦状態にある、花咲く島国オズ。島の要所である人工湖〈王のせき止め〉で、〈南部戦線〉と《エメラルド家》の戦闘が勃発した。空から迫る気球部隊、地上からは九使徒。オズの国の歴史に名を刻む最大の戦争の幕が切って落とされた。
オズの国の戦争、後編となる第六巻。「異世界」からオズにやってきた「ドロシー」の出自と、その血も涙もないヴィランの描写に本全体の1/3、〈南部戦線〉と《エメラルド家》の目まぐるしく局面の変化する局地戦に2/3という贅沢なページの使い方をしている。ページ数は一冊のライトノベルとして多い方だと思うのだけど、最後の最後までまったく飽きることがなかった。
全体的にアクションシーンが目立っていたなか、〈南部戦線〉のリーダー、“南の魔女”グリンダの苦悩は興味深かった。若くて未熟ながら魔女の力を持ち、前線の兵士と変わらぬ年齢で最前線に立たざるを得ない現場指揮官ゆえの苦悩。魔法が支配する世界でも、現実の世界でも、戦争がもたらすものと奪うものは普遍的でそうそう変わらない、みたいな。〈王のせき止め〉の戦争には一区切りがつくものの、戦争そのものはまだまだ終わる気配がないことが示唆される。下記引用部の「能天気」な結論には、ある意味で救われたような気になった。
「でも君は能天気だろう?」
「だから何……?」
「だから能天気に、考え続けるでしょ。誰もが平和に暮らせる方法を。オオカミが子鹿を食べずに済む方法を。そんなことはできない、無理だって笑われても、君は解決策を探し続ける。これから先も。それが君という人間だろう」
「…………」
「考え続けなよ、グリンダ。きっとその能天気さが、いつかこの島を救うんだよ」
そして意外なラストにはびっくりした。続きはまた変わった話になりそうで楽しみ。前の巻とあわせて、本当に最初から最後までとても楽しい一冊でした。
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