周藤蓮 『賭博師は祈らない④』 (電撃文庫)

賭博師は祈らない(4) (電撃文庫)

賭博師は祈らない(4) (電撃文庫)

「賭博師は勝たない」「賭博師は負けない」「賭博師は祈らない」。その三つの決まり事はつまり、ラザルスという名前を持つ人間の根本的な定義そのものだ。

そして、それらはもう虚しい繰り言と化した。

ラザルスたちがバースでの長逗留から帝都に帰還した.それまでの活躍によってすっかり有名人になってしまった“ペニー”ラザルス.望むと望まざるにかかわらず,警察権力と裏社会による帝都の権力争いに否応なしに巻き込まれてしまう.

舞台をバースから帝都に戻してのシリーズ四巻.フィールディング判事によって設立された私設警察組織ボウ・ストリート・ランナーズ.裏社会の支配者ジョナサン・ワイルドの二代目ジョナサン・ワイルド・ジュニア.その権力争いに立ち向かうかつての恋人同士,ラザルス“ペニー”カインドとフランセス“ヴァージン”ブラドックのふたりの賭博師.相変わらず,イギリスおたくが好き勝手に設定を盛り込んだようなノリノリの小説だと思う.本編もさることながら,あとがきからも「オタクの早口感」がビシバシ感じられて楽しい.ぼくの考えた最強の18世紀末,みたいな.

もちろんそれだけではなく,破滅と紙一重の緊張感を終始倦むことなく描いていると思う.日常と,事件と,ゲームの場面.それぞれに緊張感があって,カタルシスがある.「次巻で本編完結予定」なのがもったいない気もするけど,予告した上で完結を迎えられる小説のほうが今では少ないくらいだし,モチベーションが高いまま完結を見せてくれるのは楽しみ.お待ちしております.

枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #06』 (スニーカー文庫)

「けれど、力を合わせた人間は……心を合わせた人間は、本当に強いんです……あなたたち神々にも負けないくらいに、強いはずなんです……」

少女は。

少女であったものは。

人類を外敵から守る勇者(ブレイブ)であろうとした、たった一人の人間は。

人間であったことをすら失い、ひとつの〈獣〉へと変じようとしていたそれは。

怒りでも悲しみでも苛立ちでも憎しみでもない、空虚な感情を込めて、嘆く。

「なのに……どうして私たちは……こんなにも、バラバラなんでしょうね……」

遺跡兵装(ダグウエポン)モウルネン.それは,ひとの絆を結び仲間と力を合わせる聖剣(カリヨン)だと言われている.30年前と同じ惨劇が,再びコリナディルーチェに襲いかかろうとしていた.

かつて結ぶことのできなかった「絆」と,霧のように形を持たない〈獣〉,〈輝き綴る十四番目の獣〉(ヴィンクラ)が世界を壊そうとしていた.〈十七種の獣〉の誕生と人間種(エミネムトワイト)の滅亡と,すべての始まりを描く.「すかすか」第二部のクライマックスとなる第六巻.区切りの巻ということもあるんだろうけど,情報密度がなかなかのもの.誰も泣かず,誰も死なないことを望んだ,不器用なフェオドールがどんどん愛おしくなってくる.本当にいいシリーズだなあと思うわけです.

鳩見すた 『地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD-』 (電撃文庫)

地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫)

「ううん、ここでおしまい。わたしは地球最後のゾンビ。人類が倒すべき最後の敵。わたしが死なないと、みんなの物語が終わらないんだよ」

後に「インシデント」と呼ばれることになる,全世界同時多発ゾンビパンデミックから5年.ゾンビはすでに全滅したと考えられていたが,人類はかつての千分の一まで減少し,文明は壊滅的な打撃を受けていた.荒廃した東京を旅する少年ユキトは,北海道を目指して旅をする少女エコと出会う.エコは,他に類を見ない「ゾンビ化していないゾンビ」だった.

少年はゾンビの少女と手を取り,壊滅した世界を北へと向かう.ボーイ・ミーツ・ガールにしてポスト・ゾンビ・アポカリプス.ちょう良かった…….様々なゾンビ映画,小説,ゲームからネタを拾っており,和製ゾンビの総決算みたいな印象を受ける.それと同時にセカイ系に言及したり,(たぶん)伊藤計劃以後を拾っていたり,別の自作のネタを使っていたり,ネタは細かく多岐に渡る.

もしいま日本がゾンビで壊滅したら誰が何をするのか.倒すべき敵が全滅した今,復讐心や怒りや後悔はどこへ向かうのか.これに対する作中の回答は,「今」ならではのものだと思う.古びるのも早いかもしれないのだけど,いろいろな意味で今を切り取った,今でなければ書けないゾンビ小説なのではないかと思う.傑作だと思いました.

松山剛 『君死にたもう流星群』 (MF文庫J)

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

【スペースライター】

それは過去の記憶の『空き容量』(space)に、現在の記憶を『書き込める』(write)機械。すなわち『過去の世界』に行ける――手垢のついた言葉で『タイムマシン』ということだ。

2022年12月11日.軌道上のすべての人工衛星が落下し,「世界一美しいテロ」と呼ばれる事件が起こった日.このテロにはたったひとりだけ犠牲者がいた.それから3年が経っていた.

はじまりは2025年.夢を持てないまま25歳になってしまった無職の男が,ISSで授かった最初の「スペースベイビー」にして引きこもりの少女を救う.つくば周辺を舞台にした宇宙開発SF,かと思いきやのタイムリープ青春小説.自分の夢が未来を変えたり,ネットで「正義」をなす「地球人」が誰かの人生を大きく歪めたりといった部分を手堅く丁寧に描いていると思う.舞台やテーマ的にも映像化すると映えそう.

SFだと思って読むと煮え切らないところも多いかな.しかしJAXA筑波宇宙センターや「きぼう」といった実名が使われていたり,しっかりした取材のあとが垣間見える.まだプロローグといった感じだけど先が気になる.追いかけようと思います.

乾緑郎 『機巧のイヴ 新世界覚醒篇』 (新潮文庫)

機巧のイヴ: 新世界覚醒篇 (新潮文庫)

機巧のイヴ: 新世界覚醒篇 (新潮文庫)

「君は武道か護身術でも嗜んでいるのか」

「ああ。馬離衝(バリツ)を少々」

「バリツ?」

1892年.万博の開催を翌年に控え,新世界大陸(ムンドゥス・ノーヴス)の都市ゴダムは空前の賑わいを見せていた.日下國のパビリオン,「十三層」の目玉は,かつてはひとのように動き話していたと言われる美しい機巧人形(オートマタ)伊武(イヴ).百年の間,動くことのなかった伊武が,ふとしたきっかけで覚醒しようとしていた.

万博目前の新大陸を舞台にした『機巧のイヴ』の続編.和風伝奇スチームパンクだった前作に引き続き,万博,鉄道王,直流対交流の電力戦争といったテーマを盛り込んだ新大陸伝奇スチームパンクとなっている.個人的にはバリツの解説にこれだけのページを使っている小説をはじめて読んだ(たぶん他にもいろいろあるんだろうが).変態揃いのうえ癖が強いのに,妙に隙が多い登場人物たちの存在は,物語の緊張感を削いでいた気がするのだけどどうなんだろう.短編から長編になったのが大きいのだろうけど,ネタの緻密さや密度では前作には届かないかなあ.悪い小説ではないのだけど,前作のインパクトが大きすぎたのだと思う.個人の感想です.



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