二月公 『声優ラジオのウラオモテ #05 夕陽とやすみは大人になれない?』 (電撃文庫)

「わたしは……っ! あなたにだけは、絶対に追い抜かれたくないけれど……っ! それと同じくらい……、追い抜かれるならあなたがいいのよ……っ!」

どん、とこちらの胸に額を当てて、呻くように続ける。

「あなただけしか……、前に行かせたくない……っ!」

新作アニメへの共演が決まった夕陽とやすみ。メインヒロインに抜擢されたのは、夕陽の後輩で新人の高橋結衣。その天才的な演技にふたりは圧倒される。デビューして数年、まだ高校生でやすみは主役も経験していないのに、少ない椅子の奪い合いはすでに始まっていた。

進行形で炎上する現場に苦しめられ、後輩の天才的な演技に焦りを覚え、大学進学かそのまま声優として進むのかを悩む。夕陽とやすみの明日はどっちだ。高校三年生になり、仕事と才能に加えて、進路の悩みまで追加された、新人声優たちの仕事と青春の物語、第五巻。アニメの現場の緊張感と炎上感には説得力があるし、ライバル二人の細かいやり取りや脇を固めるキャラクターにも強い存在感がある。うまく言えないのだけど、キラキラした青春小説と、泥臭いお仕事小説の間で、不思議なリアリティレベルの舵取りをしているように見える。今回もとても良かったです。

香坂マト 『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います2』 (電撃文庫)

今までは、ひどい残業地獄が続いてもその原因となるボスをどうにかしてしまえば解消できた。例えばそのボスを倒すのが、冒険者じゃなくてもいい。残業に疲れたどこかの受付嬢が怒りのままにボスをぶち殺しても、結果的に繁忙期は終わるのだ。

だが今回は違う。殺すべきボスも攻略を終わらせるべきダンジョンもない。いつもの力業は通用せず、デマなどといういつ収束するかもわからない理由によって、この鬼のような繁忙期にいつまでも付き合わなければならないのだ。

イフールの町に、年に一度の百年祭が近づいていた。ギルドの受付嬢三年目のアリナは、毎年残業に忙殺され、祭に参加したことがなかった。今年こそは仕事を終わらせて当日は定時で帰って祭に参加するのだ。決意を新たにするアリナだったが、デマに踊らされた冒険者たちがギルドのカウンターに連日押しかける。

平穏に暮らしたいギルドの受付嬢を根拠のないデマが襲う! 強い女性主人公の系譜にあるファンタジー。突如として広まったデマがギルドの窓口業務を圧迫し、果ては世界を危機に陥れる。フィクションにおける時事ネタのリアリティが変わったのか、単に受け取る自分の問題か。

キャラクターの過去やこの世界を掘り下げることで、物語世界そのものの掘り下げに大きく成功していると感じた。一発ネタのようだった一巻からこんなに面白くなるとは想像できなかった。これだったらずっと追いかけられる。続きも楽しみにしています。



kanadai.hatenablog.jp

石川博品 『トラフィック・キングダム』

「もの作りの大半は地道な作業だ。やる仕事のすべてがクリエイティブなのは行きあたりばったりの詐欺師だけだぞ」

先生は音もなく机に跳びのる。

それでも僕はひとつひとつのことば、ひとつひとつの文に深い意味とバックグラウンドストーリーを忍ばせたいんですよ」

「そんなものが書きたければ歴史の年表でも書いていろ」

2016年夏のコミックマーケット90で頒布された中短編集。売れないライトノベル作家と、人語を話すネコの「先生」の冴えないふたり暮らしを描いた「先生とそのお布団」。翌年にガガガ文庫から出た同タイトルのプロトタイプになるのかな。尺は短いけどユーモアをまぶしたしょぼくれ具合はさすがのもの。ドッグミートの視点から描かれる『Fallout3』のファンノベル「がんばれドッグミート Dogmeat Can't Fail」は、健気にがんばるドッグミートが(イラストもあわせて)かわいらしい。表題作「トラフィック・キングダム」は、パケット(自動運転車のようなもの)の飛び交う黄昏の都市で、ふたりの中学生が抱えた閉塞感を語る。脆さと不安定さのにじみ出る、生っぽい砕けた語り言葉が非常に印象に残る。それぞれに方向性の違う、とても良い本でした。



kanadai.hatenablog.jp

岬鷺宮 『日和ちゃんのお願いは絶対3』 (電撃文庫)

そのとき――わたしの胸に意志が宿った。

それまでのんびり生きてきたわたしが、初めて心から強く願った。

――ゼロにする。

この世の地獄を、完全に消し去ってやる。

「日和は――〈天命評議会〉を抜けます」。〈天命評議会〉の活動の中で日々心をすり減らし続けていた日和。見かねた深春は、日和を〈天命評議会〉から抜けさせる。衰えてゆく世界の中で、訪れた平穏な日常。しかし、やがて世界の情勢は狂いはじめ、二人の関係にも亀裂が生じようとしていた。

「知識を受け継いでくれ。知識の手に入れ方を、論理的な思考や抽象的な思考の仕方を、受け継いでくれ。俺達にできる精一杯はそれだけだし、きっとそれが君達の未来に、欠かせないものになるはずだ」

数十億人を守るために十二万人を殺した少女は、彼と世界を秤にかける。世界の命運を握る彼女との、ほんのひとときの穏やかな日常のはじまりとその終わりを描く、由緒正しきセカイ系恋物語、第三巻。異常気象による故郷の土砂崩れ、収束しつつあったはずなのに、強毒化し突如感染者が増え始めたウイルス禍、電気や通信網といったインフラの衰退。2021年現在の世界の状況で、真面目にこれを書いたのだとしたらたしかに病むだろうし、最高に趣味が悪いとも言える。すべての登場人物が、それぞれのできるレベルで真摯に世界の終わりに立ち向かっているのが救いと言えるか。この露悪さと、ある種の懐かしさ(というか既視感というか)を感じる作風は読者を選ぶのかもしれない。個人的にはとても良いと思っています。



kanadai.hatenablog.jp
kanadai.hatenablog.jp

宇佐楢春 『忘れえぬ魔女の物語2』 (GA文庫)

「そう。一個だけだと無害な呪いでも、ほかの何かと組み合わさるととんでもないことが起きる」

呪いと、世界の繰り返しとか。

呪いと、呪いとか。

理不尽な繰り返しの一日を乗り越え、未散と綾香に穏やかな日々が訪れた。ある日、ふたりでいた放課後のこと、クラスメイトの深安なつめが綾香に頼み事を持ち込む。「演劇部に助っ人できてくれ」。それが呪いの始まりだった。

呆れるほどいつも通りだったふたりの日常を、呪いは少しずつ侵食していた。平均して同じ一日を5回過ごす、決して記憶を失うことのない「魔女」の物語。そこにいるだけで呪いになる「魔女」の存在を、現代の学校や家庭を舞台にして語ってゆく。その存在感は明白でわかりやすく、鮮烈。望まない形で願いを叶え、伝染していく魔女の力がいかに呪われたものか。「魔女」や「呪い」といったテーマへの踏み込みも、語りのうまさも、一巻から大きくステップアップした感があった。とても良かったです。



kanadai.hatenablog.jp