劉慈欣 『三体』 (早川書房)

三体

三体

「三日後の――つまり、十四日の――午前一時から午前五時まで、全宇宙があなたのために点滅する」

「中国で三部作累計2100万部突破」,「アジア圏&翻訳小説初のヒューゴー賞受賞」.すでにあちこちで話題になっている「現代中国最大の衝撃作」.一言で言うなら三体問題をテーマのひとつにしたファーストコンタクトSF,だと思う.

文化大革命,父親を殺された女性科学者の絶望.それから40年後,何者かによってもたらされた「科学の死」,三つの太陽を持ち滅亡と繁栄を繰り返す「三体世界」とオンラインVRゲーム『三体』の謎.あらすじで荘厳なハードSFを想像していたら,思った以上にトンデモなく,妙な茶目っ気がある.あれやこれやと詰め込まれた情報量が半端ではなく,それでいてリーダビリティも非常に高い.引き込まれました.

深沢仁 『この夏のこともどうせ忘れる』 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]4-7)この夏のこともどうせ忘れる (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]4-7)この夏のこともどうせ忘れる (ポプラ文庫ピュアフル)

母が初めて僕の首を絞めたのは僕が小学四年生のときで、夏休みのことだった。

はじめて母のいない夏を迎えた,受験生の夏合宿の出来事「空と窒息」.ある二組のきょうだいの秘め事を描く「昆虫標本」.夏祭りの日,花火の晩に毎年会おうと誓った五人の少年たちのその後「宵闇の山」.高校最後の夏に,ある理由から「生き残り」と呼ばれるクラスメイトと付き合うことにした女子高生の決意「生き残り」.行方をくらました父の残した海辺のアパート,そして夜の海での不思議な出会いの話,「夏の直線」

テーマは「夏休みの高校生」(あとがきより).夏の強い日射しと,そこにくっきり浮かぶ強い影が描かれる短編集.むせ返るような夏の描写と,どこか背徳的な物語が美しい.どこから切り取っても美しい文章で描かれる,夏の屋内と屋外,夏の昼と夜の対象的な描写が非常に印象強い.「英国幻視の少年たち」の完結から,物語の密度と描写がさらに磨かれた印象があった.「昆虫標本」の触れてはいけない背徳感と「生き残り」の語り手が持つ不思議な前向きさが個人的にとても良かったと思う.「文学性が強い」というのかな.とても良い短編集でした.


この夏、私はキスが上手くなり、虫を殺せるようになった。

それだけでまあいいかなと思う。



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折輝真透 『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』 (集英社)

マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に (JUMP j BOOKS)

マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に (JUMP j BOOKS)

先輩がこれを読んでいる時、僕はもう死んでいる。もし生きていたら、恥ずかしいから殺してほしい。

アメリカで開発され,漏洩したゾンビウイルスが全世界に蔓延してから5年.フィッツジェラルドに憧れる大学生の藤堂に感染したゾンビウイルスは,体内で変異型白血球を作りながら,内臓を腐らせ始めていた.「ゾンビの会」という自助グループに入った藤堂は,なんとなくつるんでいた仲間たちとの関係を変えながら,安楽死の日を待つことになる.

第4回ジャンプホラー小説大賞金賞受賞作.どこか翻訳ジュヴナイルを思わせる,ポップな語り口が特徴的な青春ゾンビ小説.「身も心も」腐り果てた大学生が,最期の日を迎えるにあたって考えたこと,感じたことを語りかけるようにただ綴った遺書でもある.内臓の腐敗が進行し,せん妄が長くなるなかでの自分語り.普通に生きてきて居場所のなかった自分,ゾンビになってただ彷徨っている自分.そして周りにいたひとたちについて.気取ってかっこつけた語りに,屍臭をごまかすためにつけるという香水の強烈なミント臭が強く印象に残る.ホラーの持つ懐の深さを感じる,よい青春小説でした.

川岸殴魚 『「キミ、どこ住み? え、俺は空中要塞住みだけど」』 (MF文庫J)

「キミ、どこ住み? え、俺は空中要塞住みだけど」 (MF文庫J)

「キミ、どこ住み? え、俺は空中要塞住みだけど」 (MF文庫J)

所沢市が誇る街のシンボル、空中要塞こばと。

市民はすでにその存在に飽きていたのだ!

九年前の終戦以来,埼玉県所沢市上空には全長900メートルの空中要塞こばとが浮かび続けていた.すでに所沢市民の日常の一部と化していた空中要塞に,高校生の黒田洋平はある日とつぜん拉致されてしまう.上空で待ち構えていたのはメイドと,空中要塞の七十三代当主,夢素香(むすか)だった.夢素香は洋平が王族の血を引いていると言い,空中要塞でいっしょに暮らすよう提案する.

所沢市と空中要塞を行ったり来たりする日常系ラブコメ.やっていることは「いせたべ」に近いと思う.

所沢=日常と,空中要塞=異世界のコンタクトものの側面もあるのかな.日照権問題や空中要塞撤去の市民運動に対応したりと,社会派なところもそれなりに多い.結果として話の軽快さが削がれる形にはなっているけど,単なるコメディでは終わらないぞ,みたいな気概も感じないこともない.二巻も楽しみにしてます.



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小林泰三 『神獣の都 京都四神異譚録』 (新潮文庫nex)

神獣の都 :京都四神異端録 (新潮文庫nex)

神獣の都 :京都四神異端録 (新潮文庫nex)

「東京から、何人で来たんでっか?」中年の小男が尋ねた。

「一人です」

「えっ? おまはん、御幾つでっか?」

「二十歳です」

「二十歳で一人旅……友達、おらんっちゅうことでんな?」

片思いの失恋を癒すため,ひとりで京都旅行に来た大学生,滝沢陽翔.ふらりと訪れた伏見港で,派手な装束を纏った男たちがひとりの少女に異能で襲いかかっているところに出くわす.特撮の撮影かな? と近寄っていった陽翔は,京都と日本の行く末を占う闘いに巻き込まれてしまう.

京都の歴史の裏側では青竜,朱雀,白虎,玄武,麒麟と,それぞれの眷属が闘いを続けていた.怪獣(怪獣ではない)と忍者(忍者ではない)が現代京都を大暴れする,現代異能ファンタジー.いろんな勢力が入り乱れるけれど,五行の相生と相剋をこれでもかと説明してくれるので特に気にせず読めると思う(というか気にする必要もないかも).不思議なノリの流れるようなボケとツッコミに乗せて,感慨もなくあっさりと崩壊してゆく京都市街.これこそ小林泰三,というスペクタクル小説だった.楽しゅうございました.