瘤久保慎司 『錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ』 (電撃文庫)

錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ (電撃文庫)

錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ (電撃文庫)

「……ひとつは、よく見ること、もう一つは……」

「……信じること。」

「できるか?」

「うん。よく、見るよ。それに、いつも信じてる……きみを。きみと、僕を」

忌浜県を離れ,大宗教都市島根に向かうビスコとミロ.その道行きで助けた老人に,ビスコは胃を奪われる.老人の正体は,かつて島根の中心たる《出雲六塔》から追放された不死僧正ケルシンハ.胃を奪われたビスコに残された時間はわずかに五日.

ビスコとミロに立ちはだかるは,弟子たちの裏切りによって奪われた五つの臓腑を取り戻すために,そしてこの世界の神になるために宗教都市出雲に戻ってきた不死僧正ケルシンハ! 一巻以上に血と暴力があふれ,一巻以上に恐るべき濃度のアクションに乗せて,中国の伝奇小説のような物語と「相棒」たちの信頼が語られる.いいやつも悪いやつも,敵も味方も本当に魅力的に描かれてるのがいいんだよな.最近流行りの宗教パンクな面が強くなっている気がするけど,少年漫画的なところはいい意味で一巻から変わっていない.

神は己の内に宿り,それ以上に「神は絆の中に宿る」ということに暴力的なまでの説得力がある.ビスコとミロのわかりやすいイチャイチャっぷりもあわせて,最高のバディものだと思う.ぜひ一巻とあわせて読んでみてほしい.

「不死僧正ケルシンハは、これから……その女みたいなガキに、ギタギタに、ぶちのめされる」

ミロはビスコがいつもそうするように、眼前の敵に向けて、噛み付くように笑った。

「眠れなくしてやるよ。クソジジイ」



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鴨志田一 『青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない』 (電撃文庫)

青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない (電撃文庫)

青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない (電撃文庫)

やさしくなるために生きる。

そんな生き方は誰も教えてくれなかった。

自然と涙が溢れたのは、翔子のやさしさに触れたから。何もできなかった自分を、翔子が許してくれたのだとわかったから。そう感じたから……。その上で翔子は、これからやさしくなっていけばいいと教えてくれたのだ。

だから、安心して涙が溢れた。止まらなかった。

時は10月,中間試験が近づくころ.引きこもりを続けていたかえでが,「今年こそ学校に行く」と兄の咲太に宣言する.まずは外に出ること,電話にでることと,かえでは自分の立てた目標を少しずつこなしていく.かえでがいじめを受けて青春症候群を発症してから約2年.目標達成は簡単ではないが,2年前の断絶を越えて,妹は着実に変化しようとしていた.

2年前に妹と,家族に起こったこと.そのころの友人との再会と,停滞していた妹の変化と成長.咲太とかえでが横浜から藤沢に引っ越してきた理由の詳細が語られる,実質的なエピソードゼロ(の一部)なのかな.妹の身に起こっていることは,衝撃的なものではあるけれどフィクションとしては特別珍しいものではないのだと思う.海辺での出会いによって「やさしくなるために生きる」ようになったことを,ぶっきらぼうだけど素直な言葉で語る.それは,家族に寄り添って生きることだったり,「理解して、支えること」の難しさだったり.

単にあるべき姿に戻るだけではなく,失ったものも当然あり,それでも一歩前に進むことができる.ここまでのシリーズの中でいちばんしっくり来るというか,今までになくすっと入ってくる結末を見せられた.なんか,泣かされてしまった.

岡本タクヤ 『異世界修学旅行DX』 (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 DX (ガガガ文庫)

異世界修学旅行 DX (ガガガ文庫)

「ドラゴンに つるべ取られて もらい水」

「重大な危機が近所に迫ってるのにもらい水してる場合か」

「ドラゴンという強大な存在と暢気な住民の対象的な様子がユーモラスに描写されていますね

「しずけさや 岩にしみいる スライムよ」

「人気のない岩山の、岩と岩の間にスライムが染み込むように侵入してゆく情緒溢れる風景がありありと浮かびますね。素晴らしいです」

読売中高生新聞に約1年半に渡って連載された『異世界修学旅行』番外編.異世界の王女に毎回ひとつのお題が出され,約5ページで次々に学んでいくという,「まんがはじめて物語」みたいな,89篇,540ページ超えの分厚い短篇集.中高生向けだからというわけではないだろうけど,話ごとに披露されるトリビアルな知識が楽しい.「読書の秋のイメージを広めたのは夏目漱石」,「世界最古の遊園地は16世紀のデンマークで開園した」,「授かったものが姓で自分で名乗るのが名字」,「大相撲はプロ野球より先にビデオ判定を取り入れた」,「小鳥遊姓は実在よりフィクションの方が人数が多い」あたりははじめて知ってへぇーとなりました.そのかわりというか,お話的な広がりはほぼない.作者が言っているように,『コボちゃん』を読むような気持ちで,目次を見ててきとうなページから読んでみてもいいかもしれない.週刊とはいえ新聞連載って大変そうだなあ,というのはひしひしと伝わってきました.


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さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 2時間目 (MF文庫J)

――この話は、俺が書いても、よかったんじゃないのか?

作家とは現実から嘘の種を拾い、育てた嘘を現実よりも美しく咲かせる仕事だ。せめて切り口を思いつくことぐらい、すべきだったんじゃないのか。

くだらない現実のぬるま湯に浸かっているあいだに。

この身体からは、想像力以上のものが、喪われてしまっているのではないか。

夏休み.学習塾TAX調布校の夏合宿が始まった.閉校が決定した府中校から転入生が入り,様々な問題がありつつも引率に勤しむ講師の天堂.作家としての同期に女子中学生を引き合わせたり,女子クラスの寝室に忍び込んでみたりと,夏の日々は淡々と進んでいく.

書きたいことが合ったはずの作家は目の前のことを淡々とこなすだけの大人になった.大人と子供の視点の違い,才能のある人間とない人間がやらなければならないことの違い.ロリコン的なあれこれとか時事ネタギャグ(やばたにえんとか日大タックルとか)を挟みながらも,語り手は徹底的に冷めている.上の引用部にあるような,自分から知らぬ間に何かが失われてしまったことに気づいたときの不安感,焦燥感.思い当たるものがあり背筋が凍る思いがした.「お仕事×年の差ラブコメ」という煽り文句はなんだったのか.

「『人間不信』はさがら総の本質だ。他者はもちろん、自身のことさえ彼は信じていない」という渡航の解説には膝を打った.『変態王子と笑わない猫。』のころから「信頼できない語り手」の,据わりの悪い小説を書くひとだとずっと思っていたのだけど,この言い方のほうがずっと腑に落ちる.というか解説に「理解できない。怖い」とまで書かれるのはすごいな.



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赤城大空 『出会ってひと突きで絶頂除霊! 3』 (ガガガ文庫)

『万単位で人間が消えるような怪異、いくらなんでも個人の力を逸脱しすぎだ。この怪事件は組織的な霊能テロの可能性が高い』

一度ハマったら三次元に戻れなくなるというアプリゲーム「ホテルラプンツェル」.当初は都市伝説と思われていたが,ゲームをプレイしていた人々が次々と失踪していることが明らかになる.事態を怪異であると認定した退魔師協会は,晴久たちを含む100人でゲームに挑むことになる.

体液が飛び交う退魔活劇の第三巻.火のついた「正義」が引き起こしたテロが誰かの心を踏みにじり消えない傷をつけ,狭い世界に閉じ込めてしまう.「ホテルラプンツェル」がなんとなく『レディ・プレイヤー1』っぽいなと思ったらどうやら正解だったらしい.デビュー作『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』を彷彿とさせる,学園エロコメの皮を被った社会派寄りの伝奇アクションになっていると思う.

テキストや随所に挟まれるネタがいちいち秀逸なので,わりと長い(というか大半を占める)ギャグパートも退屈しない.朝立ちでテントを張ってがちキャン△とかよく思いつくし,そもそもよく書くわ.下ネタと伝奇のバランスが最高だと思うし,行けるところまで追いかけていきたい.



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