鶴城東 『クラスメイトが使い魔になりまして』 (ガガガ文庫)

クラスメイトが使い魔になりまして (ガガガ文庫)

クラスメイトが使い魔になりまして (ガガガ文庫)

これはもう、おおよそ独身高齢な開業医などが住む部屋といえよう。

ブルジョワジィ。これが格差社会なのですか?

ここは国際魔術師協会付属学園日本校,境界干渉学部.昇級試験のさなかに起こったアクシデントによって,名門のお嬢様である藤原千影と魔人の魂が融合してしまう.さらに,やっと試験に合格するような落ちこぼれの生徒,芦屋想太の使い魔として契約.なし崩し的に同棲生活がスタートしてしまう.

第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞&審査員特別賞受賞作.テンポのよい召喚士と使い魔の学園ラブコメ.この手の話の常として多種多様の女の子が登場するけど,良い意味でさっぱりと描いている.ハーレム成分がないとは言わないけども,友だちとしての側面が強い気がする.「詳しく知れば忘れてしまう」など,デビュー作なのにいくつも謎を残したままなのは正直あまり好かんところではあるなあ.ひとまず続きを追いかけようと思っております.

三月みどり 『ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? だって好きなんだもん』 (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? だって好きなんだもん (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? だって好きなんだもん (MF文庫J)

これで十六回連続、謎の現象で告白が妨害されたことになる。

もうホント、なんで俺の告白ってこんなにも成功しないの。

せめて「お前のことが好きだ」くらい言わせて欲しいものだ。

高校生の優吾は同級生の天真陽毬に恋をしていた.しかし,勇気を持っていざ告白,という段階になると必ず不思議な現象が起こるため,思いを伝えることができずにいた.この現象を起こしていたのは転校生の月宮アリス,自称ラブコメの神様だった.

ラブコメのための現代ラブコメといった印象の,第14回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作.基本的には女の子たちが可愛いだけの,他愛ない話ではある.しかしキャラクターは濃い.実の姉に恋するツンデレ妹やら,変態性癖を持つヒロイン(この設定必要ある?)やら,個性が強いというよりは業が深い.ほぼ期待通り,ある部分では期待以上.お気楽で楽しゅうございました.

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって』 (スニーカー文庫)

継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって (角川スニーカー文庫)

継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって (角川スニーカー文庫)

「……これが……わたし、ですか……!?」

「そうだよ」

「メスじゃないですか!」

「そうだよ。メスだよキミは」

元恋人同士なのに,親同士の再婚によってきょうだいになった伊理戸水斗と伊理戸結女.両親やクラスメイトの手前,ふたりはあくまでもきょうだい(時と場合で兄だったり姉だったり)として振る舞おうとしていた.そんなある日のこと,水斗は図書室で東頭いさなという層序と出会い,すぐに意気投合.結女としては気が気でない.

作者曰く「完全無敵系ヒロイン」,東頭いさな登場の巻.「今や恋人という関係に特別性はない」と断言する作者が書いた,かなり実験的なキャラクターだと思う.いかにもラブコメ的なことをやりながら,作中で「異世界人」と呼ばれる価値観を披露する.そもそも恋を知らないし,知ったところで失恋が不幸にはつながらない,という.キャラクターは単純にかわいいと思うしインパクトも強い.気楽に読めるけど,試みは新しいのかもしれない.そうでもないのかもしれない.まあこの巻まではカクヨムで読めるので,試しに読んでみるのもいいさね.



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谷山走太 『ピンポンラバー3』 (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (3) (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (3) (ガガガ文庫)

敗北は誰のせいでもない。全部自分が未熟だったせいだ。

いつだって敗者にできることは二つ。抗うか、諦めるか。

だったらやることは決まっている。悔しさを糧に、努力を続けるしかない。次の勝利に繋げるために。そうすればきっと、あの敗北も必要だったと思えるときが来る。それだけを信じて。

季節は8月.翔星,瑠璃,椿の三人は全日本ユース選抜強化合宿に参加する.そこで翔星は,小学生の頃のライバルにしてインターハイ覇者の千波晴海と再会する.翔星がリハビリをしている間に晴海は大きく先に進んでいた.合宿最終日に発表される中国遠征メンバーの座を賭けて,幼なじみふたりは正面からぶつかりあう.

復活した『音速の鳥』(ソニックバード)に立ちはだかるインターハイ覇者『千技の使い手』(サウザンド・スキル),そしてその陰にあったもの.強豪が集った合宿の様子を描く第三巻.夏の強化合宿にライバルとの再会,さらなる強敵の出現と,熱血スポ根を王道で突き進む.卓球の楽しさを,そして試合の迫力と熱狂を,ここまでの熱量で描ける作家はジャンルを問わずともそうそういないはず.ただ,今回で少年マンガ的な部分が増えたというか,パワーインフレとある種のご都合主義が急速に進んだ印象があったのは気になった.リアリティレベルとケレン味のバランスは二巻までのほうが取れていたように思う.引き続き追いかけていきたいと思います.

門田充宏 『追憶の杜』 (創元日本SF叢書)

追憶の杜 (創元日本SF叢書)

追憶の杜 (創元日本SF叢書)

たとえ愚かだと笑われたとしても、それでも世界の善意を信じて生きていく方が、きっと、ずっといい。

第5回創元SF短編賞受賞のデビュー作『風牙』のその後を描いた三編,「六花の標」「銀糸の先」「追憶の杜」を集めた中編集.記憶の汎用化技術がより一般的になり,情報流(ストリーム)が生活により密着するようになった近未来の社会.そこで起こりうることを,その中心人物であるHSP(ハイ・センシティブ・パーソナリティ)感覚情報翻訳者(インタープリタ)である珊瑚を通して描く.英題の「Memento Mori」がいいなあ.

柔らかい関西弁に乗せて,「記憶」が持ちうる可能性を静かに語ってゆく.あたかもインタープリタが記憶を汎用化するかのように.帯が言う「祈りと希望」を信じることを前提とした物語は,ひとの数だけ存在する記憶になにができるかを,読者といっしょに探っている感覚がある.驚くようななにかはあまりないかもしれないけれど,上の引用部分のような静かな信念というか,力が感じられた.



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