川岸殴魚 『編集長殺し3』 (ガガガ文庫)

編集長殺し (3) (ガガガ文庫)

編集長殺し (3) (ガガガ文庫)

「もちろんそうです。僕の同期のみんなも、ちゃんと責任感を持ってシリーズを終わらせ、責任感を持ったまま作家生命も終わらせていきました。おそらくまだ責任感を持ちっぱなしで待機中ですよ。そろそろ持ってる手が痺れてるんじゃないですかね」

原西さん、またさらっと嫌なことを……。

ギギギ文庫編集部に配属された新人小山内は稀に見るヤバいやつだった.夢と情熱を持った,ドジで頑張らない「憎める後輩」にして,「後輩界の奇行種」.川田は先輩として彼女を監視するよう編集長から指示される.本当にやばいのは新人と編集部,どっちだ.

ライトノベル業界のヤバい日常をするどく切り取るシリーズ三巻.デビューしたところでぜんぜん儲からないラノベ作家業,編集者による作家の承認欲求コントロール方法,なろう小説の発掘,ツイート炎上未遂.なんか今回ネタがやたらと黒くなかった? 締め切りを2週間も破ってしまった(あとがきより)焦燥感が影響しているのか,ネタのリアリティや黒さがギャグで隠しきれていないというか,裏から透けて見えるというか.Twitter炎上ネタは現実でのちょっと前の炎上案件を思い出して,笑いと同時に軽い胃痛が出た.なんだかんだと楽しかったけど,さすがの川岸先生といえども自分(の業界)のことになると冷静にはなりきれないということなんでしょうか.

三秋縋 『いたいのいたいの、とんでゆけ』 (メディアワークス文庫)

いたいのいたいの、とんでゆけ (メディアワークス文庫)

いたいのいたいの、とんでゆけ (メディアワークス文庫)

「間にあわなかったんです。私、死んじゃいました」

少女は僕の上に跨り、胸倉を掴んで揺さぶった。「何てことをしてくれるんですか? どうしてくれるんですか?」

口を開こうとした瞬間、少女の右手が飛んできて僕の頬を張り、そのまま二発、三発と叩いた。鼻の奥がつんとして、血が出てくるのがわかった。だがこちらにそれをどうこういう資格はない。

僕はこの少女を殺してしまったのだから。

唯一の親友を自殺でなくした大学生の僕は,飲酒運転によってひとりの少女を殺してしまう.僕に殺されたはずの少女は,死の瞬間を“先送り”することによって十日間の猶予を得た.彼女は,残された十日間を,自分の人生を台無しにした人間たちへの復讐に捧げるという.

作者があとがきで曰く「二度と抜け出せない穴に落ちた人の物語」.残されたわずかな人生を復讐に捧げる少女と,復讐の手伝いをすることになった大学生の奇妙な道行き.少女の復讐には容赦がなく,彼女を復讐に駆り立てる虐待の描写にももちろん容赦はない.全編に渡って後ろ向きに全力で心をすり減らしてゆく.作者の言う通り,救いはどこにもないし,読めば読むだけ胸くそが悪くなる.

あとがきまで読めば作者の意図はなんとなくわかるんだけど,そこに至るまで何度も心が折れそうになる.黙っておすすめされたら相手を殴ると思うわ.作品に魅力があるのは分かるし,好きなひとは好きだろうなというのは想像できるけど,しかしうまく説明するのが難しいな.

瀬名秀明 『虹の天象儀』 (祥伝社文庫)

虹の天象儀 (祥伝社文庫)

虹の天象儀 (祥伝社文庫)

――いったい、私たちは、いつの夜空を見たいだろう。

織田は死ぬ前にもう一度、彼の「わが町」であった大阪の星空や朝焼けを見たいと思っただろうか。

2001年に閉館した,渋谷の天文博物館五島プラネタリウム.その閉館の翌日,27年にわたって投影機の技術係を務めてきた私の前に,ひとりの少年が現れる.少年の導きによって,戦中の東京にタイムスリップを果たした私は,そこで空襲で焼ける前の東日天文館,そして生きていた頃の織田作之助を追うことになる.

空襲で焼けたプラネタリウムとカールツァイス製投影機に伝えられた願いと,織田作之助の最後の言葉,「思いが残る」の意味を巡る時間の旅.実在した五島プラネタリウムから始まる,まさに閉館されたその年に出版された中篇小説.戦中,戦後の東京の風景と,織田作之助がたどることになる生涯がしっとりと描かれる.瀬名秀明らしい,美しいテキストに最初から最後まで惹かれ続ける.中編にするにはネタを詰め込みすぎている気がするし,終わりも少し唐突.いくらでもふくらませることができそうな話だけにちょっともったいない気がした.SFにする必要のない小説のようにも思えるけど,リライトはもう期待できないだろうな…….

瘤久保慎司 『錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ』 (電撃文庫)

錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ (電撃文庫)

錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ (電撃文庫)

「……ひとつは、よく見ること、もう一つは……」

「……信じること。」

「できるか?」

「うん。よく、見るよ。それに、いつも信じてる……きみを。きみと、僕を」

忌浜県を離れ,大宗教都市島根に向かうビスコとミロ.その道行きで助けた老人に,ビスコは胃を奪われる.老人の正体は,かつて島根の中心たる《出雲六塔》から追放された不死僧正ケルシンハ.胃を奪われたビスコに残された時間はわずかに五日.

ビスコとミロに立ちはだかるは,弟子たちの裏切りによって奪われた五つの臓腑を取り戻すために,そしてこの世界の神になるために宗教都市出雲に戻ってきた不死僧正ケルシンハ! 一巻以上に血と暴力があふれ,一巻以上に恐るべき濃度のアクションに乗せて,中国の伝奇小説のような物語と「相棒」たちの信頼が語られる.いいやつも悪いやつも,敵も味方も本当に魅力的に描かれてるのがいいんだよな.最近流行りの宗教パンクな面が強くなっている気がするけど,少年漫画的なところはいい意味で一巻から変わっていない.

神は己の内に宿り,それ以上に「神は絆の中に宿る」ということに暴力的なまでの説得力がある.ビスコとミロのわかりやすいイチャイチャっぷりもあわせて,最高のバディものだと思う.ぜひ一巻とあわせて読んでみてほしい.

「不死僧正ケルシンハは、これから……その女みたいなガキに、ギタギタに、ぶちのめされる」

ミロはビスコがいつもそうするように、眼前の敵に向けて、噛み付くように笑った。

「眠れなくしてやるよ。クソジジイ」



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鴨志田一 『青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない』 (電撃文庫)

青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない (電撃文庫)

青春ブタ野郎はおるすばん妹の夢を見ない (電撃文庫)

やさしくなるために生きる。

そんな生き方は誰も教えてくれなかった。

自然と涙が溢れたのは、翔子のやさしさに触れたから。何もできなかった自分を、翔子が許してくれたのだとわかったから。そう感じたから……。その上で翔子は、これからやさしくなっていけばいいと教えてくれたのだ。

だから、安心して涙が溢れた。止まらなかった。

時は10月,中間試験が近づくころ.引きこもりを続けていたかえでが,「今年こそ学校に行く」と兄の咲太に宣言する.まずは外に出ること,電話にでることと,かえでは自分の立てた目標を少しずつこなしていく.かえでがいじめを受けて青春症候群を発症してから約2年.目標達成は簡単ではないが,2年前の断絶を越えて,妹は着実に変化しようとしていた.

2年前に妹と,家族に起こったこと.そのころの友人との再会と,停滞していた妹の変化と成長.咲太とかえでが横浜から藤沢に引っ越してきた理由の詳細が語られる,実質的なエピソードゼロ(の一部)なのかな.妹の身に起こっていることは,衝撃的なものではあるけれどフィクションとしては特別珍しいものではないのだと思う.海辺での出会いによって「やさしくなるために生きる」ようになったことを,ぶっきらぼうだけど素直な言葉で語る.それは,家族に寄り添って生きることだったり,「理解して、支えること」の難しさだったり.

単にあるべき姿に戻るだけではなく,失ったものも当然あり,それでも一歩前に進むことができる.ここまでのシリーズの中でいちばんしっくり来るというか,今までになくすっと入ってくる結末を見せられた.なんか,泣かされてしまった.