木下古栗 『人間界の諸相』 (集英社)

人間界の諸相 (単行本)

人間界の諸相 (単行本)

カリスマ全裸公然わいせつナンパ師、早乙女アキラは股間にフェイクペニスの揺れるレザービキニのみを身につけ、柔らかなスポットライトに照らされた舞台にごく自然な歩みで登場した。
(中略)

「皆さんこんにちは、カリスマ全裸公然わいせつナンパ師の早乙女アキラと申します。とはいえ、私も基本的には捕まりたくないため、こんな格好で妥協しております」

現代の清少納言,菱野時江とその周辺の人々が起こす数々のハチャメチャを描いた短編集.全裸,勃起はもはや当たり前.ベローチェの抹茶ラテを愛する前大統領が「YES YOU CAN!」の叫びとともに勃起したジュニアの画像を取り出すだの,チノパンの下で押さえつけられる玉と竿の「位置情報」だの,カリスマ全裸公然わいせつナンパ師の公演だの.毎度のことながらひどい,というか品がないことこの上ない行為を軽快なテキストで謳い上げてゆく.そんな中で,「活字市場」は珍しく普通の奇想小説っぽさがあってびっくりすると同時に新鮮だった.(AVの)タイトルは長くないと売れない,といわれる意味がよくわかるであろう.

小川一水 『天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1』 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標X 青葉よ、豊かなれ PART1 (ハヤカワ文庫JA)

「2PAにできることもお目にかけたことですし、そろそろお話ししてもよろしかろう。――我々がどうやってほとんどのものを失い、それからこの巨大な殺戮艦隊が、どうやって我々を手に入れたのかということを、ね」

そして彼は、もうひとつの三百年の物語を始めた。

西暦2804年,数百年に渡るヒトの物語が決着する.三ヶ月連続刊行の完結篇PART1.九巻14冊を費やして語られてきた数百年,数千年分の伏線が掘り起こされ,ラストに向けてひとつの歴史が綴られる.そういう意味だったの!? だとか,今さらそれ!? みたいな仕掛けがここに至って次々と出てくるのがすごい.与太だと思っていたPPCISM(ピピシズム)(無限階層増殖型支配型不老不死機械娼像)(ピラミッドスキーム・プロパゲーティング・アンド・コントローリング・インモータル・セックスマシン)にちゃんとした意味があったのが個人的にいちばん驚いたこと.

旭蓑雄 『はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい。② ~そ、そろそろ私を好きと認めたらどうですか……?』 (電撃文庫)

「サキュバスと健全に付き合っていくためには、その状態を抜けださなければならない。彼女たちは魅了の力を持っているが、それに支配されているうちは、それを本当の愛と呼ぶことはできない」

男性恐怖症を克服しようとするクソ雑魚サキュバス,ヨミと,二次元にしか興味のない高校生,ヤス.コミケに出向いたふたりは,ヨミの知り合いである絵師しろみんにとある相談を受ける.

ちょっと変わったふたりのラブコメ第二巻.サキュバスの持つ魅了の力がどうやって誰かを幸せ,あるいは不幸にするのか.基本的にヨミがかわいいだけの他愛ない話なんだけど,書くべきことはしっかり書いているし,ストレスもなく読めて楽しい.まあ今のところ語ることもあまりないのだが.明日には三巻も出るし,引き続き追っていきたいと思います.

神西亜樹 『東京タワー・レストラン』 (新潮文庫nex)

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

「牛の美味しさに戻るけど、牛は美味しい上に無駄がないのさ。体の肉という肉に名前がついている。その上、乳まで好まれる……君たち人間は本当に乳が好きだよね。乳を欲しがる。もはや人のメスの乳より、牛のメスの乳の方を好んで摂取しているんじゃないか? もう少し同族のメスに配慮した方が良いかな、と時々思うよ」

「ご忠告痛み入ります。検討します」

どこか遠くから聞こえる音に起こされた青年,匙足(サジタリ)が目を覚ますと,そこは150年後の東京タワー・レストランだった.牛のような斑模様のあるシェフ,モウモウのために料理を作ることになったサジタリだったが,未来世界の料理はすべてゼリー状食品になっていたのだった.

ちょっと未来のお料理小説,かと思わせといて,読んでみたらホラにホラをごてごてと積み重ねて作りあげたインチキ未来史SF.……でも実は,みたいな.いろいろあって一個の共同体と化した東京タワー.3D出力されたクローンが基本となった畜産(800回に1回くらいのエラーで人間の身体構造を持った家畜が生まれる).文化的焚書坑儒によって世界から抹消されたパスタが,極東のナポリタン(パスタとして論外のため無視された)の存在によって生き延びたという歴史.詰め込みまくったユーモラスなホラと,それに付随する胡散臭いうんちくがいちいち楽しい.もともと装飾の多い文章を書くひとだったけども,それがテーマと噛み合って良い方向に働いていたと思う.特に,それほど期待していなかった料理の描写が想像以上にみずみずしくて素晴らしいんだ.

終盤に進むに連れて荒削りなところも目立っていくけど,デビュー作である坂東蛍子シリーズの雰囲気を残しつつ,ぐっと読みやすくなっている.傑作でございました.しかし,タイトルも帯も無難すぎて届くべきところに届かない可能性を考えるともったいない.君に届け.



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九岡望 『言鯨16号』 (ハヤカワ文庫JA)

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

「あのな、それは文字だ。俺が思うに文字は『言葉』じゃない」

「どういう意味です?」

「言葉は風にのるもんだ。人の口から出て音になって、そうして初めて意味を持つ。俺たちの言葉はそういう風にできていて、つまり、紙に書かれた文字には力が無い。標識とかと同じでただの記号だ。過去の、もう生きてない言葉ってわけだ」

言鯨(イサナ)によって創造された,砂に覆われた世界.人々は,言鯨(イサナ)の遺骸の上に作られた,15の鯨骨街で生活をしていた.骨摘みのキャラバンで学者になることを夢見ながら働いていた旗魚は,十五番鯨骨街の近くで運び屋の鯱と,憧れの歴史学者,浅蜊に出会う.

世界の神である15体の言鯨(イサナ)が復活する.人と蟲と砂,そして言葉で出来た世界の真実をめぐる冒険物語.活劇あり,巨大生物あり,世界の崩壊ありと,一本の長編ファンタジー映画を観たかのような気分.アクションは痛快で,真実は切ない.ちょっと前に読んだ「サムライ・オーヴァドライブ」もそうだったけど,エンターテイメントとして完成されていると思う.



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