佐藤哲也 『下りの船』 (早川書房)

下りの船 (想像力の文学)

下りの船 (想像力の文学)

その惑星は地球から 24 光年の場所にあった.荒廃した地球からの宇宙船に幾代にもわたって数千人ずつ詰め込まれ降ろされた人々は,やがてそこに社会を築き根付いていく.貧しくて暗い,先の見えない社会を船は下ってゆく.
ある惑星での社会/生活/戦争/人々の断片の積み重ね.発展途上国でのヒサンな出来事を描き出したようなエピソードの数々は,地球人が(強制的に?)移送されたどこかの惑星で起こっているという,最低限しか説明されない前提条件が大きな意味を持っている,と思う.社会的にも物理的にも出口の見えない貧困というか荒廃というか,そんなバックグラウンドがあればこそ重い意味を持つのではないかと.外(外国/地球/宇宙)からの救い(介入)は期待できない.そこにいるのはただ当人たちのみという,完璧なまでに人に依存した閉鎖環境.そんな環境において,ヤゴとヴィリの夫婦のやりとりや,マリモ夫人のクリーニング店といった他愛ない(特に前者の)エピソードが,大げさに言えば人類が上手くやっていくための希望なんじゃないかな,と.感想が上手くまとまんなくて申し訳ないですが面白かったです.