支倉凍砂 『狼と香辛料』 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)

世界観やらが作りこんであるのはもちろん,例えば「なぜ彼は驚いたのか」,「なぜ彼女は不機嫌だったのか」,といった,キャラクターの細かい挙措や情景描写までひとつひとつに対して説明がなされている印象で,とにかく誤読をされないよう,意図を正しく正しく伝えようと心を砕いている,ように私には見えた.おかげで非常に理解しやすかった反面,読んでいてかなり窮屈さを感じた.その説明の文章もどことなくドライで,このあたりは悪い意味で理系的というか論文調というか.
とか書いときながらアレだけど,ロレンスもホロも魅力的に描けているし前述の世界観もこれまた魅力的で,期待した以上に楽しかったのも事実.文章の調子と題材との噛み合わせがもしほんのちょっと違っていたら,それだけで印象ががらりと変わってかなりの傑作になっていたんじゃなかろうか,っつう気はした.
この人はフィールドをちょっと変えればかなり活躍できる作家になれるんじゃないかな.ハードSF とか.作風と経歴と著者近影の下の自己紹介からの安易なイメージだけど.今後には期待できると思う.