誼阿古 『クレイジーカンガルーの夏』 (GA文庫)

クレイジーカンガルーの夏 (GA文庫)

クレイジーカンガルーの夏 (GA文庫)

良質で正統派なジュヴナイル(not ライトノベル)だった.よかった.田舎少年たちのひと夏の成長という,パターンが出尽くした題材ではあるけど,丁寧に描かれている物語はやっぱりいくらでも読めるものだね.ひねくれ坊主の広樹が旅を通じて成長していく過程がとてもよく描けていた.
私自身,実家が田舎の元農家で,親戚が沢山いて,歩いてすぐのところに本家があってという境遇で育ったもので,前半部分のなんとも言い難い息苦しさにはなんとなく覚えがあり,すんなり入り込むことが出来た.単なるノスタルジーではない,共感と苦みの混ざった形容しにくい感覚を覚えた.
舞台が1979年ということで,時代性を演出する小道具が多用されているのだけれど,こちらは逆にピンと来なかった.作中の世代と10年以上離れているし,ガンダム細野晴臣にさして興味が無いという個人的事情が大きいのかもしれないけど.でももうすぐ0x1B歳になる私がピンと来ないものを,レーベルのメインターゲットになる中高生(だよね!?)が読んで果たして感じるものがあるのかと心配にもなった.最初に書いたようにパターンとしては使い古されているテーマなため,雰囲気や設定にフックするものがあるか無いかで思い入れが大きく変わってくるはずなので.
果たしてこの作風をこのレーベルで続けて売れるのか,新潮社か文春へ行った方が,みたいな大きなお世話的懸念もあるのだけれど,私は追いかけていきたいと思う.