赤城大空 『出会ってひと突きで絶頂除霊!』 (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! (ガガガ文庫)

出会ってひと突きで絶頂除霊! (ガガガ文庫)

「わたし、きょにゅう?」

一人目は震えながら「大きくは、ない」って言った。だからなぐった。

「わたし、きょにゅう?」

二人目は「う、うん」って言ってくれた。だからコートを開いて、

「これでも?」

って確認してみた。そしたら眼が泳いでた。だからなぐった。

五人目も、十人目も――なぐった、たくさんなぐった。

退魔師を養成する高校である都立退魔学園に通う古屋晴久には,他人に秘密にしている能力があった.それは突いた相手を生者死者問わず絶頂させ,昇天させる能力,絶頂除霊(テクノブレイク).落ちこぼれで通っていた晴久はある日,呪いの眼,淫魔眼を持つ少女,宗谷美咲に能力を見出されてしまう.

『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』の作者の最新作は,女の子のアヘ顔を書きたかったという退魔活劇.「下セカみたいに表現の自由がどうたら性教育がどうたらという大義名分すらなく」書いたということで,けっこうノリノリで書いている感がある.前作では溢れんばかりだったダジャレや下ネタは抑え気味だったけど,ここぞのときの言語感覚は相変わらず素晴らしいものがある.怪異乳避け女というネーミングと,そこからのストーリーの拡げ方には感心した.絶頂除霊(テクノブレイク)や淫魔眼という眼の呪いがキーになっているところや,能力の発現の仕方がある意味『月姫』のようでもある.「下セカ」よりSF分は減ってるけど,軽快でかえって読みやすくなっている気がするし,「下セカ」で脱落したひとも読んでみるといい.

枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #05』 (スニーカー文庫)

一枚のメモが、ファイルの隙間からこぼれ落ちた。

フェオドールは気づかない。

資料室の床に音もなく、人知れず横たわったそのメモには、暗号化されていない走り書きで、こう書かれている。

『死なせてくれ』

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セニオリスの対極にあり,「絆を強く結ぶ剣」と呼ばれる遺跡兵装(ダグウエポン)モウルネン.その秘密を探るべく護翼軍司令本部に忍び込んだフェオドールを追ってきたのは,元妖精兵ノフト・カロ・オラシオンだった.

遺跡兵装(ダグウエポン)モウルネンの能力と,「モウルネンの夜」と呼ばれる災厄の謎が中心となり,そして明確な終わりが定かになる.シリーズ五巻.今回はフェオドールの苦悩が特に目立っていたように思う.無力であることを誰よりも自覚し,悩んで迷って,自分だけの道を選ぶ,という.生きることを割り切った黄金妖精(レプラカーン)たちとの対比が今までになく際立っていた.小憎らしくて面倒くさいひねくれ者だと思っていたのだけど,実は近年まれに見る主人公らしい主人公なのかもしれない.グッと来てしまった.重いトーンが続くけど,彼ら彼女らに少しでも幸せな結末があればいいなと思えるようになってきましたよ,っと.

酒井田寛太郎 『ジャナ研の憂鬱な事件簿2』 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 2 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 2 (ガガガ文庫)

「だからさ、推理しろなんて言ってないじゃん。注意深く見なさい、ってこと。モテないよ?」

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しかし、もしその時の自分を、鏡で見ることができるなら。

真相の究明を錦の御旗に掲げながら、暗い秘密を覗き込んでほくそ笑む、いやしい顔があったに違いない。

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ジャナ研こと海新高校ジャーナリズム研究会に今回も難題が降りかかる.日常の謎を解き明かす学園ミステリのシリーズ二巻.事件を解決することのカタルシスと,真実を明らかにすることに伴う様々な感情のバランスが良いというか,不思議な形で釣り合いが取れている.真冬さんが言うところの「もやもや」した気持ちになれる,まさにタイトルに偽りなしの憂鬱な事件簿.事件が解決されるに連れて,中学時代の啓介の闇が少しずつ明らかになり,ますます憂鬱が増していくという.古典部シリーズとはまた違う,独特の読後感がある作品だと思う.

草野原々 『エヴォリューションがーるず』 (早川書房)

エヴォリューションがーるず

エヴォリューションがーるず

気づいたら、会社を休んで一週間が経っていた。おかしいな、カレンダーの数字がいつの間にか七日間増えている。メールと電話の履歴が溜まっているが、ゲームに関係ないのであれば見る必要はない。部屋にはコンビニ弁当とペットボトルのゴミが転がる。風呂に入っていないため、自分の身体も臭い始めているようだ。いくら使ったのだろうか。一週間で百万円ほどなくなったのだろうか。貯金は百五十万円ほどあったので、まだ大丈夫だ。

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ソーシャルゲーム「エヴォリューションがーるず」にドハマリして社会生活からドロップアウトしたOLの洋子は,ある日6トントラックに轢かれて死んでしまう.そこからが彼女の新たなガチャの始まりだった.

『ラブライブ!』の二次創作でデビューした作者の二作目は『けものフレンズ』の二次創作.ストーリーはソシャゲ廃人が宇宙を創造するというものでした,という.冗談のような話だけど,「最後の~」よりだいぶマイルド,かつ論理的になっていた気はする(個人的な見解).ソシャゲをプレイする意義やガチャを回す意味に迷いの生まれた廃人は読んでみるといい.

三島千廣 『熊撃権左 ―明治陸軍兵士の異世界討伐記録―』 (ガガガブックス)

熊撃権左: -明治陸軍兵士の異世界討伐記録- (ガガガブックス)

熊撃権左: -明治陸軍兵士の異世界討伐記録- (ガガガブックス)

この家にある詳細な地図によると、ここは「ロムレス大陸」という聞いたことのない土地であることが判明した。

時は明治37年,場所は遼東半島.二〇三高地攻略戦に参加していた秋田出身のマタギ,「熊撃権左」こと雨竜権左衛門二等卒は,爆発に巻き込まれた次の瞬間,見知らぬ異世界にいた.権左の意識が途切れる直前に見たものは,獣のような耳の生えた銀髪の少女だった.

第11回小学館ライトノベル大賞最終選考作.日本陸軍のマタギが異世界に転移して恩人のために持てる力を振るうという,いわゆる異世界転生もの.ワンテーマで突っ走っている感じがある.用意されたあらすじから予想の範疇を外れる要素がひとつもなかったので,個人的には正直ただただ退屈だった.