門脇恒『無敵巨人90連勝』 (KKベストブック社)

時は昭和50年,長島新監督のもとで最下位に沈んだ巨人軍.王座奪還を賭すべく森昌彦が発掘してきたドラフト1位投手・背星浩は平家の末裔だった.描かれている時期は『新巨人の星』と大体いっしょですな.
登場人物.主人公はまだいいとして(よくないが)他の入団選手がすごい.ドラフト逃れのために東海大相模を中退し養子に行って改名した原辰則(高2)に永久追放が解け球界復帰した池永正明,そして現役大リーガーのパンク・アールン(このネーミング!).著者はドラフト制度に反対しており,また池永氏の無実を固く信じていたということでこんな人選になったらしい.
でまあ監督の背番号の数だけ連勝を重ねたすえ最初の敗北の日に背星は腕を壊してサヨウナラ.そんなおはなし.
試合場面に迫力がなくて何で90連勝も出来たのかがまったくわからない(せめて「圧倒的に強い」か「綱渡りの勝利」との表現を入れてくれればいいのにそれもない)とか「平家の末裔」という設定に全然意味がない(ラストへの伏線らしいのだが私には理解不能だった)とか突っ込みどころ多数.ありがちな野球漫画の上っ面だけをなでて繋ぎ合わせた感じではあるんだけど主人公が天才すぎてたいした努力も苦労もなく勝ち進んでいくため感情移入のしようがない.スポ根漫画から根性を抜いたらそりゃ面白くないわな(漫画じゃないけど).一部の選手については趣味だの容姿だのやけに細かく書いている点は印象に残った.

一死で二番の山下大だが、これが丸顔に目許パッチリで、なんとなく野球選手というより、金持ちのボンボンに多いテニス選手のムードなんだ。このての顔には、おれ、てんでファイトが湧かないんだ。そうだろう、源ちゃん、三振を喰らわすのがちょっと可哀想なような顔、青年団対抗のチームにだって、一人もいやしないぜ。滑ってユニホームが汚れたら、こっちがついその泥をはらってやりたいくらいな顔なんだ。

……そういえば田村ゆかりも昨日のラジオで「可愛い顔の監督さんですね」とか言ってたっけ.
あとがきによると昭和50年9月(つまり長島政権1年目のシーズン終盤)から書き始めて出版されたのが翌年1月.巨人最下位という「事件」の便乗商品のひとつだったんだろうなあ.急いで書かれたことがよく分かるし,門脇さんが巨人があまり好きではない(ただし森昌彦は好き)らしいことも分かった.5.0.
著者はゴルフを題材にした小説や劇画の原作を多く手がけた方のようで,調べたらこんなの出てきた.